今回は,裁判事例に関連して「公正な会計慣行とは何か」,「会社法違反による過料の制裁にご注意」,ならびにお知らせとして星野弁護士が編集した書籍,ベンチャーサポート研究会シンポジウム,およびTiE Entrepreneurial Summit 2008のご紹介をお送りします。
1 「公正な会計慣行とは何か」 旧長銀事件 最判平20年7月18日
「公正な会計慣行とは何か」が争われた旧長銀事件を素材に,「公正な会計慣行」の考え方をご紹介します。
2 「会社法違反による過料の制裁にご注意」
役員の定員割れを放置したり,登記を懈怠したりすると,会社法によって,過料という行政罰を課されます。
3 お知らせ
□ 出版情報「和解・調停モデル文例集」改訂増補二版
□ ベンチャーサポート研究会 シンポジウム
□ TiE Entrepreneurial Summit 2008
1 「公正な会計慣行とは何か」
判例紹介−旧長銀事件 最判平成20年7月18日判決
株式会社が製品を販売した場合に,契約,出荷,納品,検収,代金受領のどの時点で売上計上するべきか,というような会計処理は,「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」に従わなければなりません(会社法431条)。
そして,「公正な会計慣行」とは,企業会計審議会が公表する「企業会計原則」を始めとする様々な会計基準であると考えられています。
しかし,「会計慣行」は一定不変のものでなく,しばしば改訂されるため,新たな会計基準が導入された場合,それがいつから強制力をもつかは明確ではありません。
旧長銀が,平成9年3月以降に大蔵省が発した資産査定通達等に準拠せず,関連ノンバンクに対する貸出金の償却を行わずに平成10年3月期に配当を行ったとして,頭取等が有価証券虚偽報告罪・違法配当罪に問われた旧長銀事件では,第1審と第2審は,前記大蔵通達は「公正な会計慣行」であるとして懲役を課し,最高裁は一転して「公正な会計慣行」だったとは言い切れないとして無罪を言い渡しました。
最高裁は,「資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準は,特に関連ノンバンク等に対する貸出金についての資産査定に関しては,新たな基準として直ちに適用するには,明確性に乏しかったと認められる上,本件当時,関連ノンバンク等に対する貸出金についての資産査定に関し,従来のいわゆる税法基準の考え方による処理を排除して厳格に前記改正後の決算経理基準に従うべきことも必ずしも明確であったとはいえず,過渡的な状況にあった」ことを理由としています。
この理由からも分かるように,「公正な会計慣行」か否かは,反復継続性が認められるか,どの程度広く採用されているかなどを基礎とした事実認定の問題です。
被告とされた頭取等は,平成11年に起訴され,懲役刑を宣告されるなど,去る7月に晴れて無罪となるまで,その負担は計り知れないものだったと思われます。
捜査機関側は,本件を深刻に受け止めるべきであり,会社実務においては本件のようなリスクがありそうな場合には,行政や専門家の見解を得ておくなど,リスクを最小化する対策をとるべきでしょう(古田)。
参考:最高裁平成20年7月18日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080718153916.pdf
会社法431条
2 「会社法違反による過料の制裁にご注意」
取締役の任期は,選任後2年以内に終了する最後の事業年度の株主総会が終了したときに終了します(会社法332条 定款で短縮することができます。)から,役員の改選をした場合には,その本店所在地において,2週間以内に商業登記をしなければなりません。
法務局では,定期的に登記手続の懈怠について調査を行っており,登記懈怠の事実を裁判所に通知しています。
裁判所では,この通知に基づいて,登記懈怠の期間の長短に応じて過料の制裁を決定しています。
一般的には,6ヶ月から1年程度懈怠している事案について,5万円の過料とされているようです。
ベンチャー企業がIPOを申請する際に,しばしば過去の登記懈怠を指摘される場合があり,法令遵守の内部管理体制が不十分であると評価されますので注意が必要です。
また,取締役が定款で定めた員数を欠くことになった場合には,速やかに株主総会を招集して,その選任手続をしなければなりません。
誰が株主かの係争中であったため,株主総会を招集できなかったという事案において,裁判所は,欠員がある以上,一時取締役の選任手続を裁判所に申し立ててでも欠員を埋めなければならないとして,過料の制裁を課しています(大阪高裁平成20年3月25日決定)。
経営方針の違いなどによって,取締役が辞任した場合など,適切な対応に留意しなければなりません(古田)。
参考:大阪高裁平成20年3月25日決定
会社法332条
3 お知らせ
□ 出版情報「和解・調停モデル文例集」改訂増補二版 □
当事務所の星野雅紀弁護士が編集する「和解・調停モデル文例集」改訂増補二版が,新日本法規出版株式会社から平成20年8月12日付で発行されました。和解や調停手続において作成される和解条項等は紛争の再発を防止するために,極めて洗練された構成になっています。
本書は,法律実務に携わる者にとって必携のベストセラーのアップデート版です。
詳しくはhttps://www.clairlaw.jp/book/books101.htmlをご覧ください。
□ ベンチャーサポート研究会 シンポジウムのご案内 □
NPO法人ベンチャーサポート研究会では,以下の通り9月17日にシンポジウムを開催します。
今回は,東京中小企業投資育成株式会社様のご厚意で,200名収容可能な会場をお借りしています。様々な人とのネットワーキングも期待できますので,奮ってご参加ください。
【テーマ】
「リスクマネーがVBに流れるようにするためには」
【プログラム】
18:30 開会挨拶 弁護士古田利雄
18:40 パネルディスカッション
20:10 質疑応答&ネットワーキング(名刺交換)
20:30 閉会
【会 場】
東京中小企業投資育成株式会社 8階会議室
東京都渋谷区渋谷3丁目29−22 投資育成ビル
http://www.sbic.co.jp/other/access.html
<会場アクセス> JR「渋谷駅」新南口より徒歩1分
【パネラー】
経済産業省 新規産業室長 吾郷進平氏
有限責任中間法人日本エンジェルズフォーラム 代表理事 井浦幸雄氏
レオス・キャピタルワークス株式会社 代表取締役社長 藤野英人氏
ネオステラ・キャピタル株式会社 投資本部長 祇園哲孝氏
株式会社キャンバス CFO 加登住眞氏
ウィル キャピタル マネジメント株式会社 古我知史氏
城西大学准教授 太原正裕氏
【お申込】
件名を「9月17日シンポジウム参加」として,お名前,ご所属,ご連絡先メールアドレスをご入力の上,電子メールにてお申込ください。
参加申込メールアドレス:info@v-support.jp
□ TiE Entrepreneurial Summit 2008 のご案内 □
アントレプレナーシップのプロモーションを目的とする非営利のグローバル団体であるTiEは,本年12月16日から18日にかけてインドのバンガロールでTiE Entrepreneurial Summit 2008を開催します。
イベント概要はこちら(サイトは閉鎖されました)に掲載しています。
当事務所の弁護士も参加します。
興味がある方は:info@clairlaw.jpまでご連絡ください。