今回は,「商標」が類似しているか否かの判断の仕方に関する裁判例のご紹介,「秘密情報」が保護されるためにの要件についての解説,ベンチャーサポート研究会 シンポジウムのご案内をお送りします。
1 判例紹介−知財高裁平成20年3月19日判決
「商標」が類似しているか否かの判断の仕方について,全体を1つの標章とみるべきか,それとも部分的に分断してみるべきかの判断基準を示した裁判例をご紹介します。
2 秘密情報とは?
法律的に「秘密情報」が保護されるためには,どのような要件を備えている必要があるのでしょうか。各要件の内容について解説します。
3 ベンチャーサポート研究会 シンポジウムのご案内
古田弁護士が代表を務めているNPO法人ベンチャーサポート研究会では,9月17日水曜日,シンポジウム「リスクマネーがVBに流れるようにするためには」を開催します。
1 判例紹介−知財高裁平成20年3月19日判決
著名なファッションブランドの中には,わずかな文字数で構成された標章(マーク)を利用しているものが数多くあります。しかしながら,少ない文字数で構成される標章は,他者の標章の一部として紛れ込んでしまう場合もあります。
今回は,ロックバンド「ELLEGARDEN」(エルレガーデン)を擁する芸能プロダクション(Y会社)がウェブサイトの通信販売及びライブツアー時にファングッズとして販売する「ELLEGARDEN」と記載されたTシャツが,「ELLE」(エル)の商標を持つフランスの会社(X会社)の商標権を侵害しているか否かが争われた事案をご紹介します。
結論として,裁判所は「ELLE」の商標と「ELLEGARDEN」の標章との類似性を否定し,X会社の請求(Tシャツにおける「ELLEGARDEN」標章の使用差し止め等)は認められないとしました。
商標と標章の類否判断は,対比される標章が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決せられ,原則として,外観,観念,称呼等が類似していれば誤認混同を生ずるおそれがあるとされます。
「ELLEGARDEN」という標章を「ELLE」と「GARDEN」を分離して把握すると,「ELLE」の部分は,Xの「ELLE」商標と外観と称呼が一致するため,本件判決の結論を左右する最大のポイントは,「ELLEGARDEN」という標章を一体のものとして捉えるのかにありました。
裁判所は,
(1) Tシャツ等のロゴをみると「ELLEGARDEN」の標章は,同大,同色,同フォントで一連一体にまとまりよく表記してなるものであり,「ELLE」「GARDEN」との間に顕著な懸隔は見当たらず,殊更に分断して把握すべき外形的な事情は見当たらない
(2) 「ELLEGARDEN」の使用態様は,骸骨が刃物を振りかざしているデザイン等と一体として用いられ,あるいは,「SKULL」「SHIT」といった一般に嫌悪感を感じさせるような言葉とともに並記され,家庭向けの清潔なイメージを販売広告戦略とする「ELLE」ブランドのイメージとはおよそ重なる余地がない
(3) 「ELLEGARDEN」のTシャツ等は,当該ロックバンドのライブツアーの際に販売される場合は,出所の混同を考慮する必要はないということができるし,ウェブサイトにおける販売についてみても,購入に至るまでには複数のステップがありロックバンドのファンサイトであると容易に気づかせるような表示が随所に見られるのであるから,これを購入しようとする者が出所の混同を来す場合があるとは容易に想定し難い
(4) 「ELLEGARDEN」はオリコンチャートで1位を獲得する程度に著名なグループであり,この名称はそのようなロックバンドを表す固有名詞として平成10年当時から継続的に使用されてきた
という4つの要素を挙げ,「ELLE」商標の著名性を考慮してもなお,「ELLEGARDEN」の標章を「ELLE」部分と「GARDEN」部分とに分断すべきものと解することはできないとし,その上で,「ELLE」と「ELLEGARDEN」は,外観,観念,称呼いずれにおいても類似することはできないとしました。
標章の外形が特殊であったり(例えば「ELLE」と「GARDEN」で「ELLE」部分が大きい,「ELLE」と「GARDEN」の間隔があいているなど),標章の使用態様が類似していたり(例えば「ELLEGARDEN」を家庭向けの清潔なイメージで用いるなど),商品の販売態様が当該芸能人を想起させなかったり,当該芸能人が有名でなかった場合には,結論が逆になった可能性もあるため,あくまで「商標」と「標章」の類否判断は個別具体的な事情に帰することになりますが,商標の類否判断の対象となる標章について,全体を1つの標章とみるべきか,それとも部分的に分断してみるべきか否かの判断基準が示された点で,参考になる判決です(鈴木理晶)。
参考:知財高裁平成20年3月19日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080324091152.pdf
商標法36条,37条1号
2 秘密情報とは?
企業は技術的な或いは営業上の秘密情報を持っています。これらの情報は不正競争防止法によって保護されますが,秘密情報として(同法では,「営業秘密」と表現されています。)として保護されるためには,
(1)秘密管理性,(2)有用性,(3)非公知性の3つの要件を備えていることが必要です。
以下それぞれの要件について解説します。
(1) 秘密管理性(「秘密として管理されている」)
裁判で最も争われることの多い要件で,この要件を欠くとして法的保護が否定される場合が少なくありません。
秘密管理性を要件として求める趣旨は,情報の利用者に対して,保護されている情報とそうでない情報との識別を容易にするというところにあります。
判例は,秘密管理性が認められるためには,
(ア)当該情報へのアクセスできる者が限定されていること,
(イ)当該情報にアクセスした者にとって当該情報が営業秘密であることを客観的に認識できるようにしていること
が必要であるとしています(東京地裁平成12年12月7日判決)。
これらの要件が満たされているか否かの判断にあたっては,情報の性質,保有形態,企業の規模,組織形態などの具体的状況に照らしてケースごとに個別に判断されることになります。
例えば,コンピュータ内の情報について秘密管理性が認められるためには,パスワードの設定,アクセスできる者・端末の制限,紙媒体やディスクへの印刷・記録の制限,印刷・記録物の厳重な管理等が求められます。
情報の適切な管理の方法については,経済産業省が公表している「情報システム安全対策基準」などを参考にするとよいと思います。
(2) 有用性(「生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報」)
保有することにより他の事業者より優位に立てるような情報が有用な情報といえます。
「事業活動に有用な技術上の情報」としては,例えば,新製品の開発計画,製品の設計図,製造プロセスなどがあげられます。
「事業活動に有用な営業上の情報」としては,例えば,顧客名簿,販売マニュアル,仕入先リストなどがあげられます。
一方,脱税の手口を教示する情報,禁制品の入手方法を示す情報のような反社会的な情報は,正当な事業活動に有用な情報であるとはいえず,営業秘密として保護されません。
(3) 非公知性(「公然と知られていないもの」)
「公然と知られていない」とは,当該情報が刊行物に記載されていないなど,保有者の管理下以外では一般的に入手することが出来ない状態にあることをいいます。
多くの者に知られている場合であっても,それぞれの者に秘密保持義務が課されていれば非公知といえます。例えば,秘密保持義務を定めたライセンス契約に基づいて多数のライセンシーに情報を開示しても,それらのライセンシーが秘密保持義務を遵守している限り非公知性は失われません(新妻)。
参考:東京地裁平成12年12月7日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/1845FE84276CDE9749256A7700168A68.pdf
経済産業省「営業秘密管理指針」
http://www.meti.go.jp/kohosys/press/0003613/1/030130eigyo-set.pdf
不正競争防止法2条4項
3 ベンチャーサポート研究会 シンポジウムのご案内
NPO法人ベンチャーサポート研究会では,以下の通りシンポジウムを開催します。
事前の参加申込が必要です。ご興味のある方は,下記詳細をご覧のうえ,お申込ください。
【テーマ】
「リスクマネーがVBに流れるようにするためには」など
【パネラー】
経済産業省 新規産業室長 吾郷進平氏
日本貿易振興機構(ジェトロ)輸出促進・農水産部 九門崇氏
NPO法人日本エンジェルズフォーラム 代表理事 井浦幸雄氏
レオス・キャピタルワークス株式会社 代表取締役社長 藤野英人氏
ネオステラ・キャピタル株式会社 投資本部長 祇園哲孝氏
株式会社デフターパートナーズ 取締役 古川拓氏,熊地叔子氏
株式会社アクアRIMCO 代表取締役社長 高宮良彦氏
V-MODE 社長 高橋英樹氏
株式会社キャンバス CFO 加登住眞氏
HS PARTNERS 坂本久男氏
日本経済新聞社 上田敬氏
城西大学准教授 太原正裕氏
【日時】
2008年9月17日(水) 18:30〜20:00
【場所】
霞ヶ関の弁護士会館を予定していますが,詳細は決定後,追ってご連絡します。
【申込】
件名を「9月17日シンポジウム参加」として,お名前,ご所属,ご連絡先メールアドレスをご入力の上,メールにてお申込ください。
参加申込メールアドレス:info@v-support.jp