今回は,退任後も会社の役員としての権利義務を有する者に対し会社法854条を(類推)適用して株主が解任請求できないとした判例の紹介,執行役と執行役員の違いについてお送りします。
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1 判例紹介−最高裁平成20年2月26日判決
会社法346条1項に基づき退任後もなお会社の役員としての権利義務を有する者に対し,同854条を(類推)適用して株主が解任請求をすることはできないとした判例をご紹介します。
2 執行役と執行役員の違い,説明できますか?
執行役と執行役員。名称は似ていますが,全く違う制度です。一番の違いは,会社法上の機関であるか否かという点です。
1 判例紹介−最高裁平成20年2月26日判決
会社法346条1項に基づいて退任した後も会社の取締役としての権利義務を有する者(以下「役員権利義務者」といいます。)が会社法854条の解任請求の対象となる「役員」に含まれるかどうかについて判断した最高裁判決を紹介します。
会社法346条1項は,役員が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合には,任期の満了又は辞任により退任した役員は,新たに選任された役員(仮役員も含む)が就任するまで,なお役員としての権利義務を有する旨を定めています。
一方,会社法854条は,「役員」の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があった場合で,一定の要件を満たす場合,株主が当該役員の解任を請求できると定めています。
最高裁は,(1)会社法854条は,解任請求の対象につき,単に役員と規定しており,役員権利義務者を含むと規定していないこと,(2)役員権利義務者に不正行為等があり,新たに役員を選任することができない場合には,仮役員の選任を申し立てることができるのであり(会社法346条2項),会社法346条1項の「新たに選任された役員」には仮役員も含まれるのであるから,株主は,仮役員の選任を申し立てることにより,役員権利義務者の地位を失わせることができることを理由として,「会社法854条を適用又は類推適用して株主が訴えをもって当該役員権利義務者の解任請求をすることは,許されないと解するのが相当である。」と判断しました。
役員権利義務者が会社法854条の解任請求の対象になるかどうかについては学説上も議論のあるところでしたが,最高裁が初めて否定する旨の判断をしたということで実務上意義を有する判決といえます。(鈴木俊)
参考:最高裁平成20年2月26日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080226111307.pdf
会社法346条1項2項,同854条
2 執行役と執行役員の違い,説明できますか?
執行役と執行役員は,名称は似ていますが,全く違う制度です。一番の違いは,会社法上の機関であるか否かという点です。以下それぞれの制度についてご説明します。
(1) 執行役
執行役は,委員会設置会社において業務執行を行う機関です(会社法418条)。委員会設置会社では,業務執行の決定の多く及び業務執行について執行役に委ね(同416条4項,418条),取締役会は,主にその監督機関の役割を担う(同416条4項1号)ことで経営の合理化と適正化を図っています。
執行役と会社は委任関係にあります(402条3項)。執行役は取締役会の決議により選任され(402条1項・2項),いつでも取締役会の決議により解任することができます(403条1項)。
(2) 執行役員
執行役員は,前述の執行役と異なり,会社法上の制度ではありません。会社が執行役員という職位を設ける趣旨は,執行役制度と同様に,業務執行機能と意思決定・監督機能を分離し,取締役会の意思決定の迅速化を図るためです。
執行役員は会社法上の制度ではないので,設計の自由度は執行役に比べて高く,会社の実状に合わせた内容にすることができます。
執行役員は,執行役と同様に取締役会の決議により「重要な使用人」として選任されます(会社法362条4項3号)。
執行役員は,代表取締役などが行う業務の一部について権限を委譲され行使する立場にありますので,権限の範囲には一定の限界があります。たとえば,重要な財産の処分及び譲受け等の重要な業務執行の決定については,取締役会決定事項とされていますので(会社法362条),執行役員が単独で決定することはできません。
執行役員は,取締役ではありませんので,株主代表訴訟の被告とはなりません。但し,取締役を兼任していたり,事実上の取締役であると認められるような場合には,代表訴訟の被告となることも考えられます(事実上の取締役法理・東京地判平成2年9月3日参照)。
また,取締役ではないため,業績を踏まえて適宜に賞与を与えても,税務会計上の経費性を否認されることはありません。
執行役員と会社との間の法律関係については,雇用型と委任型があります。雇用型の場合,労働法の適用があります。従業員から執行役員を選ぶ場合には,一般的には雇用型が採用されています。雇用型にすれば会社との関係は従来と異ならないことから,運用しやすいという面があります。
委任型は主に社外の者を執行役員とする場合に採用されます。委任型の場合,労働法の適用はなく,解除は自由で,雇用型と比べて裁量の範囲が広くなります。
なお,労働法の適用の有無については,雇用契約・委任契約といった契約の形式ではなく,実質的な職務範囲と権限で判断されることになります。その際には,執行役員の職務遂行上,会社の命令・指示に対しどの程度の裁量があるかという点が判断基準となります。(新妻)
参考:東京地判平成2年9月3日(判例時報1376号110頁)
会社法362条4項3号,同402条,同403条1項,同418条,同416条4項