今回は,取締役の善管注意義務・忠実義務違反を理由とする損害賠償決定が取り消された裁判例の紹介,コカ・コーラの瓶を立体商標として認めた裁判例の紹介,無料セミナーのご案内,相互リンク募集のお知らせをお送りします。
1 判例紹介―東京地裁平成16年9月28日判決
民事再生手続下で,旧取締役の善管注意義務・忠実義務違反を理由とする損害賠償決定が取り消された事例をご紹介します。
2 判例紹介−知財高裁平成20年5月29日判決
コカ・コーラの瓶は立体商標とは認められないという特許庁の審決が取り消された事例をご紹介します。
3 無料セミナーのご案内
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4 相互リンク募集のお知らせ
WEBサイトのリニューアルに伴い,相互リンク先を募集しています。
1 判例紹介―東京地裁平成16年9月28日判決
民事再生手続に入ると,民事再生法143条1項により,再生裁判所は役員の責任に基づく損害賠償請求権の査定の裁判をすることができます。
本件は,株式会社そごうの再生裁判所により,その取締役3名の損害賠償債務が16億2570万円と査定されたことに対して,当該取締役3名が民事再生法145条1項による異議の訴えを提起し,当該損害賠償査定決定が取消された事案です。取締役の経営に関する裁量権を肯定した限界事例の一つといえるため,紹介します。
株式会社そごうは,平成2年3月ころ,トルコ共和国イスタンブール市への百貨店の出店を検討することとなり,出店用地の確保,政府との交渉等を現地法人のA社に委託し,株式会社そごうのグループ会社を通じて,A社に対して同年6月(第一貸付)と12月(第二貸付)に,それぞれ1500万米ドルを融資しました。この第二貸付に際しては,顧問弁護士からA社の遵法精神の欠如,信用力および業務遂行能力の欠如が指摘され,出店用地への建築許可の可能性について建設会社から疑問が呈され,また,第一貸付の際に設定された根抵当権の極度額の増額もなされていませんでしたが,最終的には貸付が実行されました。ただし,契約書のA社側の署名は取れておりませんでした。
その後,株式会社そごうは,A社から再三,出店用地の取得代金の増額と早期の送金を要求されましたが,湾岸戦争の勃発やバルセロナ出店計画のための費用増大のため資金状況は厳しくなっており,平成3年1月に,本計画の「静観」を決定しました。さらに,平成5年には,複数の弁護士に依頼して法的観点から本件計画の遂行上の問題,貸金の回収についての実体法上,手続法上の問題点の調査検討が行なわれ,弁護士らの報告書にはA社に対する不信の意見が強調されているものもありました。しかし結局,株式会社そごうは,A社に対しての債権回収を行なわず,最終的にA社から回収できたのは平成14年の500万円にすぎませんでした。
再生裁判所は,取締役3名は,(1)第二貸付を中止するかA社に対する確実な保全措置を執るべき注意義務があった,(2)第二貸付後平成5年までに本件計画を中止して債権を回収する義務があったとして,16億2570万円の損害賠償債務を査定しました。
これに対して,本判決は,「取締役の業務についての善管注意義務違反又は忠実義務違反の有無の判断に当たっては,取締役によって当該行為がなされた当時における会社の状況及び会社を取り巻く社会,経済,文化等の情勢の下において,当該会社の属する業界における通常の経営者の有すべき知見及び経験を基準として,前提としての事実の認識に不注意な誤りがなかったか否か及びその事実に基づく行為の選択決定に不合理がなかったか否かという観点から,当該行為をすることが著しく不合理と評価されるか否かによるべきである。」との判断基準を示しました。
その上で,(1)については「A社に代わる適切な業者の当てがない状況で,A社への業務委託を打ち切ることは無謀」「海外での開発業務の経験が豊富な弁護士が現地に赴いてA社との交渉に当たっていたのであるから,役員らに法的手続について遺漏があるかどうかについて逐一確認するまでの義務があるとはいい難い」などとし,「本件第二貸付を中止することは,本件計画を断念することに匹敵する事態であり,そのような判断を当時行なうだけの事情はなかったというべきである。また,貸付けに当たっての債権保全措置に遺漏があったことは認められるが,経営者としては弁護士を含む事務担当者が適切に処理することを期待することは相当であり,義務違反があったとはいえない。」とし,(2)については「平成5年中の調査結果自体からみても,必ずしも本件計画を断念して法的手続を選択することが有効であるとの結論は出てこない。」「調査結果から直ちに本件計画を断念して,貸金債権回収の法的手段を講ずるべきであるとの結論を導くことはできない。」として,取締役3名の損害賠償責任を否定しました。
事業会社の取締役の経営上の判断に善管注意義務又は忠実義務違反が肯定された判例の多くは,株式投資や財テクなどサイドビジネスの失敗が問題とされたのに対して,本件ではイスタンブールへの百貨店の出店事業という取締役の本業に関する経営上の判断が問題とされていること,本件では取締役らと会社が金銭的な利益相反状況にはなかったことなどが,取締役らに比較的広範な裁量権が認められた理由と思われます(鈴木理晶)。
参照:東京地裁平成16年9月28日判決
判例時報1886号111頁
民事再生法143条1項,145条1項
2 判例紹介−知財高裁平成20年5月29日判決
最近,コカ・コーラの瓶は立体商標とは認められないという特許庁の審決を裁判所が取り消したとの報道がなされましたが,今回はその最新裁判例を紹介します。
本件訴訟は,ザ コカ・コーラ カンパニー(以下「コカ・コーラ」といいます。)が,コカ・コーラの瓶(以下「本件商品」といいます。)を立体商標として出願したものの,拒絶査定を受け,これに対する不服申し立てに対しても特許庁が本件商品は商標法3条1項3号に該当し,同法3条2項に該当しないことから立体商標とは認められないとの審決を下し,これに対しコカ・コーラがその審決の取消を求めて訴えを提起したというものです。
商標法3条1項3号は,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標については商標登録を受けることができないと定め,同法2項は,そのような商標であっても使用によって需要者が何人かの業務に係る商品等であることを認識できるものについては商標登録を受けることができると定めています。
本件訴訟でも,本件商品が商標法3条1項3号に該当するか,該当するとしても同法2項に該当するかの2点が争点となりました。
まず,本件商品が商標法3条1項3号に該当するかの点について,裁判所は,「商品等の形状は,多くの場合に,商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されるものであり,客観的に見て,そのような目的のために採用されると認められる形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,同号に該当する。」という規範を立てた上で,本件商標の形状は,いずれの部分も飲料容器として基本的な形状であったり,容器の輪郭に美感を与えるものであったり,ラベルの貼付を容易にすることに資するものであったりすることから,本件商品は,客観的に見れば,コーラ飲料の容器の機能又は美感を効果的に高めるために採用されるものと認定し,商標法3条1項3号に該当すると判断しました。
次に,本件商品が商標法3条2項に該当するかの点について,裁判所は,「立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは,当該商標ないし商品等の形状,使用開始時期及び使用期間,使用地域,商品の販売数量,広告宣伝のされた期間・地域及び規模,当該形状に類似した他の商品等の存否などの事情を総合考慮して判断するのが相当である。」という規範を立てた上で,本件商品が昭和38年までには我が国全域において販売されるに至ったこと,昭和46年の年間販売数量が23億8833万本となり,ペットボトル入り商品等の比率が上昇した近年でも9600万本前後の年間販売数量をあげていること,コカ・コーラは,昭和36年に本件商品の本格的な広告宣伝を開始し,以降,多大な広告費を投入し,長年にわたり本件商品を印象付ける広告宣伝を継続していること,本件商品の形状自体がコカ・コーラの「ブランド・シンボル」として認識されていたこと,銘柄想起調査においてラベルを付けない空き瓶についても6割から8割の者が「コカ・コーラ」と回答したこと,数多くの書籍において商品の立体的形状に自他商品の識別力が存する典型例として本件商品を挙げていること,第三者が本件商品に類似の形状の容器を使用した事実を発見した場合には,コカ・コーラは直ちに厳格な姿勢で臨み,その使用を中止させてきており,そのような厳格な管理態勢の結果,本件商品類似の立体的形状を備えた瓶は,本件商品を除いて,市場に流通する清涼飲料水には用いられていないこと,このような状況下では本件商品に「Coca-Cola」などの表示が付されている点が本件商品の自他商品識別機能を獲得する上で障害となるというべきではないことから,本件商品の使用によって自他商品識別機能を獲得したものというべきであり,商標法3条2項により商標登録を受けることができるとし,特許庁の審決を取り消す旨の判断をしました。
立体的商標の審決取消を巡っては,かつてサントリーの「角瓶」やヤクルトの容器などが訴訟になりましたが,いずれも請求が棄却されていました。今回は審決の取消が認められたということで画期的な判決といえますが,判決文の内容からすると,やはり容器類が立体的商標として認められるためのハードルは相当高いと言わざるを得ないかと思います(鈴木俊)。
参考:知財高裁平成20年5月29日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080529172621.pdf
商標法3条1項3号,2項
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以下の要領で無料セミナーを実施します。
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ベンチャーサポート研究会 info@v-support.jp宛にお早めにお申込み下さい!
□日 時: 6月18日(水曜日) 18:30〜
□場 所: 弁護士会館(霞ヶ関駅B1b出口直通)10階 1001号室
□スピーカー: 中央三井信託銀行 証券代行部
□テ ー マ: 「2009年1月の株券電子化に関する手続などについて」
□主 催: ベンチャーサポート研究会
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