今回は,著作権侵害の主体についての判例紹介(その2),M&Aにおける表明保証責任についての判例紹介,無料セミナーのご案内,ホームページリニューアルのお知らせをお送りします。
1 判例紹介〜著作権侵害の主体について(その2)
放送コンテンツのネット転送システムに関わった事業者が著作権侵害主体にあたるとされたケースと侵害主体にあたらないとされたケースを2回にわたってご紹介します。今回は,著作権侵害にあたらないとされたケースです。
2 判例紹介―東京地裁平成19年9月27日判決
企業買収(M&A)において,契約当事者は,どの範囲で自己の財務内容等を表明保証する責任があるかが問題となった事例をご紹介します。
3 無料セミナーのご案内
無料セミナー「2009年1月の株券電子化に関する手続などについて」を開催します。奮ってご参加ください。
4 ホームページリニューアルのお知らせ
事務所名を変更したことにともない,WEBサイトをリニューアルしました。
1 著作権侵害の主体について〜その2
テレビ放送をデジタル化してインターネットを通じて転送し,海外などの遠隔地において視聴することができるようにするシステムをめぐって,前回はシステムに関わった事業者が侵害主体にあたるとした裁判例(録画ネット事件)をご紹介しました。今回は,侵害主体にあたらないとした裁判例(まねきTV事件)をご紹介します。
まねきTV事件
東京地裁平成18年8月4日決定
知財高裁平成18年12月22日決定
申立人(以下「X」といいます。)は放送事業者,被申立人(以下「Y」といいます。)は「まねきTV」という名称で,ソニー製の商品名「ロケーションフリーテレビ」の構成機器であるベースステーションを用い,専用モニター又はパソコンを有する利用者がインターネット回線を通じてテレビ番組を視聴できるようにするサービスを提供している事業者です。Xは,Yの行う本件サービスが,放送事業者の有する著作隣接権(送信可能化権。著作権法99条の2)を侵害しているとして,本件放送の送信可能化行為の差止めを求めました。
送信可能化権とは,放送を受信してインターネット等で送信するために,サーバー等の「自動公衆送信装置」に「蓄積」「入力」することにより,不特定又は特定多数の者に対してアクセスがあり次第送信され得る状態に置くことに関する権利です。
仮処分決定は,本件サービスにおいては,
(1)機器の中心をなし,そのままではインターネット回線に送信できない放送波を送信可能なデジタルデータにする役割を果たすベースステーションは,名実ともに利用者が所有するものであり,その余は汎用品であり,特別なソフトウェアも使用していないこと,
(2)1台のベースステーションから複数の専用モニター又はパソコンに放送データが送信されることは予定されていないこと,
(3)特定の利用者のベースステーションと他の利用者のベースステーションとはそれぞれ独立していること,
(4)利用者によるベースステーションへのアクセスに特別な認証手順を要求するなどして利用者による放送の視聴を管理することはしていないことに照らせば,ベースステーションにおいて放送波を受信してデジタル化された放送データを専用モニター又はパソコンに送信するのは本件サービスの利用者である,
と判断しました。その上で,本件サービスにおける個々のベースステーションは「自動公衆送信装置」に当たらず,Yの行為は,送信可能化行為にあたらないとして,Xの仮処分申立を却下しました。
本件と録画ネット事件との大きな違いとして,ベースステーションを個々の利用者が名実ともに所有していること,特別な機器やソフトウェアを一切使用していないこと,送信側と受信側が1対1であり,システムとして集中管理が行われていないこと,認証管理等がないことなどがあげられます。サービスの利便性やシステムの安全性の向上を図ろうとすればするほど,サービス提供者の管理・支配性が強いとして侵害行為の主体であると判断されてしまう可能性が高まるといえるでしょう(新妻)。
参照:著作権法2条1項7号の2,同条項9号の4,同条項9号の5,同条5項,同法99条の2,
同法112条
東京地裁平成18年8月4日決定
知財高裁平成18年12月22日決定
判例時報1945号95頁
2 判例紹介―東京地裁平成19年9月27日判決
今回ご紹介する裁判例(東京地裁平成19年9月27日判決)は,株式会社ライブドアによる中古車販売を業とするジャック・ホールディングス株式会社(後に株式会社ライブドアオートに商号変更)の買収に関し,企業買収(M&A)において,契約当事者は,どの範囲で自己の財務内容等を表明保証する責任があるかが問題となった事案です。
両社は,平成17年8月25日,資本提携に関する基本合意を締結し,次いで同年9月1日,業務提携に関する基本合意(両合意を合わせて「本件各提携契約」)を締結し,ライブドアは,ジャック・ホールディングスの株式の51%を保有するに至りました。
ところが,間もなくライブドアの粉飾決算等が明らかになり,翌年1月23日,その取締役らが本件粉飾決算等に係る証券取引法違反の容疑で逮捕されるに至りました。
ジャック・ホールディングスは,本件各提携契約締結前に,ライブドアが本件粉飾決算等の事実を告知していたならば本件各提携契約を締結することはなく,ライブドアがこの告知を怠った故にジャック・ホールディングスは16億円余の損害を被ったとして損害賠償請求訴訟を提起したのです。
本件の主な争点は,企業買収における買主であるライブドアが「本件各提携契約締結前に,本件粉飾決算等の事実を告知する義務を負っていたか」という点にあります。
この点について,東京地裁は,まず次のような規範を定立しています。
「企業間の買収については,私人間の取引であることから私的自治の原則が適用となり,同原則からは,買収に関する契約を締結するに当たっての情報収集や分析は,契約当事者の責任において各自が行うべきものである。…企業買収において資本・業務提携契約が締結される場合,企業は相互に対等な当事者として契約するのが通常であるから,上記の原則が適用され,特段の事情がない限り,上記の原則を修正して相手方当事者に情報提供義務や説明義務を負わせることはできないと解するのが相当である。」
当時,ライブドアはマザーズに上場,ジャック・ホールディングスは東証二部に上場しており,その意味で対等の関係にあったということができ,本件各提携契約を締結するにあたっての情報収集や分析は,ライブドア及びジャック・ホールディングスのそれぞれの責任において行うべきものと認定されています。
そこで次に問題になるのは,本件において,ライブドアがジャック・ホールディングスに対して本件粉飾決算等の説明をしなければならない「特段の事情」があったかという点です。
通常,企業買収の際の契約書では,各当事者に「表明保証責任」を規定しています。例えば,財務諸表等を提出させ,これらが真実に反していない旨を表明かつ保証させるのです。
この点に関して,本件では,ジャック・ホールディングスの表明保証責任の内容が財務状況を含め多数の項目にわたり定められているのに対し,ライブドアの表明保証責任の内容はわずか3項目に過ぎず,かつ,財務状況における表明保証責任は定められていませんでした。
東京地裁は,これらの諸事実を認定して,「仮にライブドアに本件粉飾決算等の事実があったとしても,ジャック・ホールディングスは,本件各提携契約締結前に,ジャック・ホールディングスに対し,当該事実を告知しなければならない義務があったとする特段の事情は認めることができない」と判断して,ジャック・ホールディングスの請求を棄却しています。
本件で,まず注意すべき点は,本件各提携契約の中に,ライブドアが自己の財務状況について表明保証する規定がなかった点です。もし,このような規定が設けられていれば,損害額がいくらになるかは別にして,当該保証責任に違反したライブドアが責任を負うことになると思います。
本件は,契約書に規定がない表明保証責任について,対等関係にある当事者である以上,契約書に表れた事項を当事者の意思として尊重し,契約書に規定していない説明義務の存在を否定したものであり,契約実務を担当している者からすれば,いわば当然の判断ということができます。
もっとも,上場企業と未上場企業というように,両当事者の力関係に差がある場合には,「買収に関する契約を締結するに当たっての情報収集や分析は,契約当事者の責任において各自が行うべきものである。」という原則が修正される可能性があります。
また,企業買収に関する契約書において,表明保証責任,特に財務状況に関する表明保証は,売主・買主双方について,ごく一般的に規定されているものです。この実務は,「表明保証をした当事者は,表明保証した事実については保証責任を負う一方,それ以外の事実については保証責任を負わない」という判断を促すことになり,本件のように,表明保証責任規定が抜けていると,世間一般の企業買収における契約実務に照らすと,「あえて除外した。」と判断される可能性が高くなるので,注意が必要です(佐川)。
参考:東京地裁平成19年9月27日判決
3 無料セミナーのご案内
以下の要領で無料セミナーを実施します。
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日 時
6月18日 18:30〜
場 所
弁護士会館(霞ヶ関駅B1b出口直通)10階 1001号室
スピーカー
中央三井信託銀行 証券代行部
テーマ
「2009年1月の株券電子化に関する手続などについて」
主 催
ベンチャーサポート研究会
座席に限りがありますので,ベンチャーサポート研究会(info@v-support.jp)宛にお早めにお申込みください。
4 ホームページリニューアルのお知らせ
当事務所では,事務所名を変更したことにともない,ホームページをリニューアルしました。
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