今回は,社外取締役の責任限定契約について,特許の有効性について,それぞれご説明します。
1 社外取締役等の責任限定契約
社外取締役等の責任限定のための責任限定契約について,どのように定款で定めたらよいか,文言の解釈をご紹介しながらご説明します。
2 他者特許の有効性について
他者特許の有効性について,どのような点に着目して判断していけばよいかご説明します。
1 社外取締役等の責任限定契約
6月総会に向けて,定款変更を検討されている会社も多いと思います。そこで,社外取締役等の責任限定契約について説明します。
効果的な内部統制(社長にはっきりNo!と言って牽制できるシステム構築)のためには,その会社の昇進ルートを経由していない社外役員を採用することが求められています。他方,企業活動が広範に及ぶことにともなって取締役や監査役等の役員の責任は巨額になる可能性があり,社外役員になろうとする者にとっては,内情を十分理解していない会社の役員になるのはリスクが大きすぎ,その結果,社外役員のなり手が見つからないことになりかねません。
そこで,会社法は,社外役員の責任について,「定款で定めた範囲内であらかじめ株式会社が定めた額」と「最低責任限度額として2年分の報酬」とのいずれか高い額を限度とする責任限定契約を結ぶ制度を設けています(法427条)。
この定款例として,「当会社は,社外取締役との間で,会社法第423条第1項の賠償責任について法令に定める要件に該当する場合には,賠償責任を限定する契約を締結することができる。ただし,当該契約に基づく賠償責任の限度額は,法令の定める最低責任限度額とする。」とする表現をよく見かけます。
この表現には,427条の条文の求める「定款で定めた範囲内であらかじめ株式会社が定めた額」が欠けているようにも読めますが,「法令の定める最低責任限度額」つまり最低責任限度額を「あらかじめ株式会社が定めた額」とするものとして有効だと解されています。この規定の場合,「あらかじめ株式会社が定めた額」は「最低責任限度額=2年分の報酬」と同額となるので,これが責任限度額になるわけです。
それでは,VCや親会社の役員が無報酬で社外役員に就任している場合,2年分の報酬もゼロなので,全く責任を負わないことになるのでしょうか?
当事務所では,427条は,「(役員の損賠賠償の免除は総株主の同意が必要であるとする)424条の規定にかかわらず,」と規定されていること,年間報酬を無報酬ではないが著しく低額にすることもできることから,無報酬の役員の最低責任限度額はゼロであり,前記定款規定によれば無責任になる(あくまでも善意・無重過失の場合)と解釈しています。
他方,424条によって役員の損賠賠償の免除は総株主の同意が必要なので,427条によって無責任になることは認められないとする見解(中央三井信託銀行,商事法務1827,5頁,「424条との抵触の問題となろう。」と指摘)や,訴訟になったときは,社外役員等が受けている何らかの利益を報酬と評価されると指摘する見解もあります。
このような疑義を避けるためには,全株懇モデルのように,「当会社は,会社法第427条第1項の規定により,社外取締役との間に,任務を怠ったことによる損害賠償責任を限定する契約を締結することができる。ただし,当該契約に基づく責任の限度額は,○○万円以上であらかじめ定めた金額または法令が規定する額のいずれか高い額とする。」と定めておくほうがよいかもしれません(古田)。
参照:会社法427条,423条1項,424条
当事務所ホームページに責任限定契約書の雛形を掲載しています。
こちらからご参照ください。
https://www.clairlaw.jp/download/liability_limitation_agreements_outsidedirector.html
2 他者特許の有効性について
研究開発を行い特許出願しようとする場合,関連する他社特許の調査を行い,対策を立てる必要があります。調査の結果,他者特許に無効理由があれば,無効審判を申し立てたり,無効理由を示して交渉したりすることができます。無効であれば抵触の問題も生じませんから,まず有効性についての調査をし,次に開発技術が他者の特許権の及ぶ範囲か否かを調査するという手順を踏むとよいとされています。
特許を取得するための主な要件として,
a)産業上利用できること(特許法29条1項)
b)新規性があること(同29条1項)
c)進歩性があること(同29条2項)
d)最先の出願であること(29条の2,39条1項)
e)公序良俗に反しないこと(32条)
f)明細書の記載に不備がないこと(36条4項1号,6項)
があります。
この中で特に問題となる場合が多いものは,b)新規性,c)進歩性,f)明細書の記載要件です。
b)新規性については,特許出願前に,公に知られたり,実施されたり,書籍や雑誌,ウェブサイト等で公開された発明については,新規性がないとされます。
c)進歩性については,特許出願前に通常の技術者が,公にされている発明に基づいて容易に発明をすることができたときは,進歩性がないとされます。
判断の際には,引用発明,周知慣用技術,技術常識から,通常の技術者が出願された発明に容易に到達できたことの論理付けができるか,という判断基準が用いられ,例えば,公知の発明の効果が最もあがる数値を示したに過ぎない場合や,課題が共通している場合(「XにAを加えると強度が上がる」という引用発明に対して,「YにAを加えると強度が上がる」という発明など)には,通常,進歩性がないとされます。
近年は,進歩性の判断が特許権者に厳しくなる方向に変化してきているようです。
f)明細書の記載要件には,実施可能要件(明細書の記載に基づき通常の技術者が実施できるか),サポート要件(発明の詳細な説明に記載したものであること),明確性要件(特許を受けようとする範囲が明確であること)等があります。
サポート要件については,近年,より多数の実施例が求められるようになり,明確性要件については,用語の意味の解釈の際に考慮される出願時の技術水準の認定が厳格化する傾向にあります。
このように,近年審査基準が特許権者に厳しくなる傾向があり,過去に特許権を取得しても,現在の基準で判断すると要件を満たさないとされるものが多いようです。2007年の統計では,特許無効審判請求のうち,7割程度の請求が成立しています(新妻)。
参照:特許法29条,29条の2,39条1項,32条,36条4項・6項
特許庁ホームページ
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/shiryou/toukei/nenpou_toukei_list.htm