今回は,ダスキン事件最高裁判例,インターネット上の書き込みが名誉毀損罪にあたらないとして無罪判決が下された裁判例,および日経産業新聞に掲載された古田弁護士のコラムをお送りします。
1 判例紹介―最高裁平成20年2月12日判決
ニュースレターVol.1(2007年7月11日発行)でご紹介したダスキン事件について,最高裁は大阪高裁の判断を支持し,当時の役員に対して2〜53億円の支払いを命じました。
2 判例紹介―東京地裁平成20年2月29日判決
インターネット上の書き込みについて,刑法上の名誉毀損罪の成立が阻却される余地が大きいという立場をとり,無罪判決を言渡した事例を紹介します。
3 古田弁護士のコラムが日経産業新聞に掲載されました
古田弁護士のコラムが,3月12日,13日,17日および18日の全4回にわたって,日経産業新聞「日経ビズテク塾」に掲載されました。「ひこにゃん事件にみる著作者人格権」です。
1 判例紹介―最高裁平成20年2月12日判決
当事務所のニュースレターVol.1(2007年7月11日発行)でご紹介したダスキン事件について,最高裁判決が下されましたのでご紹介します。
最高裁は,2月12日,ミスタードーナツが無認可添加物を含む「大肉まん」を販売したことに関する株主代表訴訟について,大阪高裁の判断を支持し,当時の役員に対して2〜53億円の支払いを命じました。
具体的には,無認可の添加物混入を知ったうえで在庫を販売し,かつ添加物混入を知らせた関係業者に口止め料を支払ったミスタードーナツ事業部の専務と事業本部長は,連帯して53億4350万円を会社に弁償するように命じられました。前社長他の当時の役員11名については,社長2名が約5億円強,他の役員が2億円強の連帯責任が認められています。
会社のためを思ったとはいえ積極的に隠蔽工作をおこなった役員に責任が認められたのは当然ですが,他の平役員については,大阪地裁は責任を否定し,大阪高裁は責任を肯定するという判断の分かれる事案でした。
他の平役員が責任を負う根拠とされたのは,問題の大肉まんの販売が終了した平成12年末から1年近く経過した翌年11月29日の取締役会において,この違反行為があったことを「自ら積極的に公表しない」ことを前提として他の決議を可決した事実です。
カンパニー制を採用している会社の平取締役としては,自分の所轄でない事業部で1年近く前に起きた不祥事について,社長や常務などが公表しない方針を立て,しかも当面問題となりそうもなかった(無認可添加物TBHQはFAO及びWHOが安全性を確認し米国など十数カ国で広く使用されており,現に平成14年5月まで本件は明るみに出なかった。)状況において,取締役会で開示するべきであると固執するのは勇気がいるかもしれません。
しかし,最高裁の判決がなされた以上,自社の不祥事などについて,自ら誠実に開示すれば後になんらかの事情で公表された場合に比べて信用低下を回避できるケースでは,取締役には,当該損害を回避するべき善管注意義務があることは争えないと考えておくべきです。
平成15年に問題化してから今日に至るまでの関係者の精神的・経済的な負担は大変なものだと思われます。取締役になった以上,会社の損得や,場合によっては会社の存続を考慮せず,コンプライアンスの観点からの判断をしなければ,生涯年収を超えるような巨額の責任を負うことがあることを肝に銘じておくべきです(古田)。
2 判例紹介―東京地裁平成20年2月29日判決
会社員の男性が,飲食店グループを経営する企業と宗教団体が一体であるような文章をホームページに記載した行為について,名誉毀損罪にあたらないとして,無罪判決が言渡されました。この刑事裁判を担当した主任弁護人によると,書き込みをめぐる名誉毀損で無罪が出たケースは初めてだそうです。
名誉毀損罪(刑法230条)は,公然と事実を摘示して他人の名誉を毀損する犯罪で,3年以下の懲役若しくは禁固又は50万円以下の罰金に処せられます。これは,名誉権という重要な人権を保護するものです。一方,表現の自由もまた民主主義の基礎となる人権として保障されています(憲法21条1項)。
そこで,名誉権と表現の自由との調整の観点から,刑法230条の2には,(1)公共の利害に関する事実に係り,(2)もっぱら公益を図る目的で,(3)真実であることの証明があったときには,罰せられないと定められています。
さらに,判例は(3)について,内容が真実でないとしても,真実であると誤信したことについて確実な根拠・資料に照らして相当と認められるときには,名誉毀損罪は成立しないとしています(最高裁昭和44年6月25日判決)。
本判決は,真実であることの証明(上記(3))がなく,しかも,確実な根拠・資料に基づいていないとして,メディア報道によったならば有罪になる可能性を指摘しました。その上で,(a)ネット利用者は相互に送受信でき,書き込みに対して被害者は容易に反論できた,(b)メディアや専門家が新聞や雑誌などの従来型の媒体で行った表現とは対照的に,個人がネット上で発信した情報の信頼性は一般的に低いと受け止められている,(c)個人が公共の利害に関する事実について真実性を立証するのは困難である,などと指摘しました。そして,被告人は,ネット個人利用者として要求される程度の調査(経営会社の登記や雑誌の資料等を調べたようです。)をした上で内容が真実だと誤信していた,として,刑事責任は問えないと判断しました。
インターネットの発達により,これまでメディアに独占されていた情報の発信を一般市民も自由に行えるようになり,活発な議論が展開されています。ネット上の書き込みを広く名誉毀損罪で罰することになると,表現の自由を萎縮させてしまうことになりかねません。また,本判決も指摘するように,ネット上の表現については,メディアによる表現と異なり,反論することが容易です。このような観点から,個人のネット上の表現行為に対して新たな基準を提示した本判決は画期的な判決であると評価されています(新妻)。
参照:刑法230条,230条の2,憲法21条1項
最高裁昭和44年6月25日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/ADC64003F68B253949256A850030ABE0.pdf
朝日新聞 2008年3月1日 朝刊
主任弁護人のHP
http://kito.cocolog-nifty.com/topnews/2008/02/post_d3c4.html
東京新聞 2008年3月1日
小倉秀夫弁護士のブログ
http://benli.cocolog-nifty.com/la_causette/2008/03/post_7de5.html
3 古田弁護士のコラムが日経産業新聞に掲載されました
古田弁護士のコラムが,3月12日,13日,17日および18日の全4回にわたって,日経産業新聞「日経ビズテク塾」に掲載されました。
いわゆる「ひこにゃん事件」を素材に,著作者人格権について解説したもので,当事務所のニュースレターVol.14(2008年1月23日発行)でも取り上げた話題についてより詳しく解説しています。
当事務所のウェブサイトおよびブログにも記事を掲載しています。是非ご覧ください。
参照:ニュースレターVol.14(2008年1月23日発行)
https://www.clairlaw.jp/newsletter/2008/01/newsletter515.html
当事務所ウェブサイト「NEWS」ページ
https://www.clairlaw.jp/news/
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