今回は,いわゆる「マクドナルド訴訟」の紹介,4月1日より施行される「改正パートタイム労働法」の解説,「企業における競業避止義務の定め方」,ベンチャーサポート研究会のご案内をお送りします。
1 判例紹介―東京地裁平成20年1月28日判決
マクドナルドの店長が残業代の請求権のない「管理監督者」に当たるかについて,東京地裁の判断基準と労働債務の不履行についてのペナルティである付加金の制度についてご紹介します。
2 「改正パートタイム労働法」が施行されます
4月1日より,改正パートタイム労働法(改正法)が施行されます。準備は整っていますか?施行を目前に控え,改正のポイントをおさえておきましょう。
3 会社財産保護のための「企業における競業避止義務の定め方」
雇用の流動化が進む今日,営業秘密などの重要な会社財産を保護するためには有効な競業避止義務を定めることが重要です。今回は,競業避止義務の定め方を裁判例に学びます。
4 ベンチャーサポート研究会のご案内
古田弁護士が代表を務めているNPO法人ベンチャーサポート研究会では,毎月定期勉強会を開催しています。今回は,3月19日水曜日,是永基樹氏を講師に迎え,「新産業構造論を検討する中で産業技術の構造的位置付けと研究開発動向」などをテーマに勉強会を開催します。
1 判例紹介―東京地裁平成20年1月28日判決
マクドナルドの店長に未払い残業代等の支払いを命じた本判決は,新聞・テレビ等で大きく取り上げられ,店長を管理職として扱っている外食チェーン店等に大きな影響を与えました。
本判決の争点は,店長が労働基準法の「管理監督者」(同法41条2項)にあたるかという点です。「管理監督者」にあたると,労働時間や休憩・休日について労働基準法の規制の対象外となり,会社は残業代の支払義務を負いません。
本判決は,従来からの判例の立場を踏襲し,(1)経営者との立場の一体性,(2)勤務態様の自由裁量性,(3)賃金等を含めた処遇の3つの基準により,「管理監督者」に該当するかを判断し,店長は,「管理監督者」にあたらないとしました。
まず,(1)経営者との立場の一体性については,店長には,社員を採用する権限はない,店舗で独自のメニューを開発したり商品の価格を設定したりすることは予定されていない,店長はマクドナルドで開催される各種会議に参加しているが,その場で企業全体としての経営方針等の決定に関与するものではないなどとして,経営者との立場の一体性を否定しました。
次に,(2)勤務態様の自由裁量性については,店長は,自らスケジュールを決定し,早退や遅刻について上司の許可を得る必要がないなど,形式的には労働時間に裁量があるようにみえるが,実際には,法定労働時間を超える長時間の時間外労働を余儀なくされるのであるから,労働時間に関する自由裁量性があったとはいえない,また,店長の職務は労働基準法が規定する労働時間等の規制になじまないような内容,性質であるとはいえない,としました。
更に,(3)賃金等を含めた処遇については,店長全体の40パーセントを占める一般的な店長の年収と,「管理監督者」として扱われていないファーストアシスタントマネージャーの収入との差は年額で44万円にとどまり,また,店長の月平均労働時間は,ファーストアシスタントマネージャーの月平均の労働時間を超えていることを考慮すると,労働基準法の労働時間等の規定の適用を排除される管理監督者に対する処遇として十分とはいい難い,としました。
なお,本判決は,未払いの残業代等(時間外割増賃金及び休日割増賃金,労働基準法37条)の他に,その5割の額の付加金の支払いを命じています。
付加金は,使用者が労働者に対して金銭を支払う義務を怠った場合に,その未払い金額そのものの他に,それと同額の付加金を上乗せして支払わせる制度です(労働基準法114条)。これは違反をすると二重払いをさせられるという「制裁金」の制度であり,経済的な痛手を使用者に与えて,違反を抑止することが狙いとされています。条文上は,未払金と「同一額」と規定されていますが,実際には付加金の支払を命じない場合もありますし,認めても何割か減額するケースもあります(大阪地判平成8年10月2日参照)。
残業代の未払いはコンプライアンスの観点から問題があるうえ,消滅時効までの2年分の残業代と付加金の合計額は多額に及ぶことがあり,企業の財務内容に少なからぬ影響を与えることがあるので注意が必要です。
参照:労働基準法41条2項,37条,114条
大阪地裁平成8年10月2日判決(判例タイムス937号153頁)
2 改正パートタイム労働法が施行されます
4月1日より,改正パートタイム労働法(以下「改正法」)が施行されます。
ここで,改正法にいう「短時間労働者(パートタイム労働者)」とは,「1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者」を指します(改正法第2条)。つまり,「パートタイマー」「アルバイト」「契約社員」「準社員」など呼び方がどうであるかには関わらず,この条件に当てはまる者はパートタイム労働者に該当することになるのです。
今回の改正の大きなポイントは,(1)労働条件に関する文書の交付等の義務,(2)待遇の決定に当たって考慮した事項の説明義務および(3)通常の労働者への転換の推進義務にあります。
(1) 労働条件に関する文書の交付等(改正法第6条)
労働基準法では,パートタイム労働者も含め,労働者を雇い入れる際には,労働条件を明示することが義務付けられています。特に,「契約期間」「仕事をする場所と仕事の内容」「始業・終業の時刻や所定時間外労働の有無,休日・休暇」「賃金」などについては,文書で明示することが義務付けられています。
改正法では,これに加え,「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」を文書の交付等により明示することが義務付けられます。これに違反し,行政指導によっても改善がみられない場合は,10万円以下の過料に処せられます。
(2) 待遇決定に当たっての考慮事項の説明義務(改正法第13条)
改正法では,パートタイム労働者から求められた場合,そのパートタイム労働者の待遇を決定するに当たって考慮した事項を説明することが義務化されます。
(3) 通常の労働者へ転換する機会の付与(改正法第12条)
改正法では,パートタイム労働者から通常の労働者への転換を推進するため,通常の労働者を募集する場合にその募集内容を雇っているパート労働者にも周知するなどの措置を講じることが義務化されます。
その他,調停制度の導入なども行われます。
参照:短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(改正後)
第2条,第6条,第12条,第13条
パンフレット「パートタイム労働法が変わります!」
http://www.mhlw.go.jp/topics/2007/06/dl/tp0605-1h.pdf
パートタイム労働者就業規則の規定例
http://www.mhlw.go.jp/topics/2007/06/tp0605-1h.html
3 会社財産保護のための「企業における競業避止義務の定め方」
雇用の流動化が進む中,営業秘密など会社の財産を保護する必要がある企業では,退職者が競業行為を行う場合に備えた対策をとっておくべきです。
そこで今回は,競業避止義務に関する各種の裁判例を踏まえ,競業避止義務の定め方について考えてみます。
まず,競業避止条項そのものの有効性ですが,「退職後1年間は,日本国内において,貴社と競業する業務に就きません。」という誓約書のようなはっきりした資料があることに加えて,競業制限の合理性を求めるのが判例・通説です。
合理性の判断要素としては,(1)競業避止義務の目的(使用者の正当な秘密・ノウハウの保護など),(2)労働者の在職中における地位・職務,(3)競業禁止の範囲(職種・場所・期間)および(4)代償措置の有無・内容などが挙げられます。
また,上記(1)〜(4)の中でいずれを重視するかについては諸説あり,目的の正当性を必須の要素とする例(フォセコ・ジャパン事件)や代償措置の有無を不可欠の要素とする例(東京貨物社事件)もありますが,いずれにも重点を置かず,総合判断するのが多数説です。
合理性を欠く場合には,公序良俗(民法90条)違反として競業避止の合意は無効となります。
競業避止条項が有効で,競業避止義務違反が認められたとしても,会社の被った損害額を立証することには困難が予想されますから,競業避止義務に違反した場合の違約金の定めをあらかじめ設けておくべきです。
例えば,就業規則において,退職金を数回に分割して支払うこととしたうえで,競業避止条項に違反したときは退職金を半額まで減額することが考えられます。
このような規定は,制限違反の就職をしたことにより勤務中の功労に対する評価が減殺され,退職金の権利そのものが一般の場合の半額しか発生しない趣旨であると解するべきで,労働基準法16条に違反しないものとされています(最高裁昭和52年8月9日判決)。また,具体的に違約金額を定めた場合でも,競業避止義務違反は労働契約終了後の債務不履行であって,労働契約の不履行には文理上該当しないため,同条項には違反しないといえます。
参照:労働基準法16条;
「労働契約の不履行について,違約金を定め,又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」
民法90条
フォセコ・ジャパン事件
(奈良地裁昭和45年10月23日判決 判例時報624号78頁)
東京貨物社事件
(東京地裁平成12年12月18日判決 労働判例807号32頁)
三晃社事件
(最高裁昭和52年8月9日判決 労働経済判例速報958号25頁)
ダイオーズサービシーズ事件(東京地判平14.8.30)
4 ベンチャーサポート研究会のご案内
NPO法人ベンチャーサポート研究会では,以下の通り3月19日に勉強会を行います。
事前の参加申込が必要です。ご興味のある方は,下記詳細をご覧のうえ,お申込ください。
テーマ
「新産業構造論を検討する中で産業技術の構造的位置付けと研究開発動向」など
講師
是永 基樹 氏
日時
2008年3月19日(水)18:30〜20:00
場所
弁護士会館ビル5階 会議室502C (地下鉄霞ヶ関駅B1出口直通)
弁護士会館アクセス:http://www.toben.or.jp/abouttoben/map.html
申込
件名を「3月19日勉強会参加」として,お名前,ご所属,ご連絡先メールアドレスをご入力の上,次のメールアドレスまで,メールにてお申込ください。
参加申込メールアドレス:info@v-support.jp
【 講 師 略 歴 】
是永 基樹 氏
Motoki Korenaga, Ph.D., M.Egr.Mgmt.
工学博士
元内閣府イノベーション25特命室参事官補佐
経済産業省 産業技術環境局 研究開発課 課長補佐
(技術戦略・研究開発制度担当)