今回は,株主総会決議取消しに関する裁判例のご紹介(その1),著作者人格権,退職慰労金としてのストックオプションの動向についてお送りします。
1 判例紹介―モリテックス総会決議取消事件判決(東京地裁平成19年12月6日)〜その1〜
株主総会決議が,株主側の委任状の取扱いが不当だったことや利益供与を理由に取り消された裁判例より,今回は会社提案の議案採決時に株主提案についての賛否を記載した委任状にかかる議決権の個数を出席議決権数に含めなかった決議方法の適法性についての争点を中心にご紹介します。
2 著作者人格権とは?
昨年話題となった「ひこにゃん」をめぐる紛争を素材に,著作者人格権についてご説明します。
3 役員退職慰労ストックオプションが増加傾向に
ストックオプションを役員退職慰労金として支給する企業が増加している状況をご紹介します。
4 講演会「ベンチャーって,面白い?」のご案内(再)
2月7日(木),辻俊彦氏による講演会「ベンチャーって,面白い?」(主催:ベンチャーサポート研究会)を開催します。
1 判例紹介―モリテックス総会決議取消事件判決(東京地裁平成19年12月6日)〜その1〜
上場企業であるモリテックスの会社側提案にかかる取締役および監査役の選任決議を無効とした東京地裁の判決が注目されています。
この事件では,主に,会社提案の議案採決時に株主提案についての賛否を記載した委任状にかかる議決権の個数を出席議決権数に含めなかった決議方法の適法性,議決権を行使した株主にQuoカードを交付することが利益供与にあたるかが争点となりました。
本号では前者について解説します。
モリテックスの定款は,取締役は8名以内,監査役は3名以内と定めており,同社の大株主IDECは,定時総会に先立って取締役8名,監査役3名の選任を求める株主提案を行い,他の株主らに対して委任状の勧誘を行いました。この委任状が発送されたのは平成19年6月6日からでした。
会社側は,株主に対して,この委任状が発送された後に,会社側が推薦する取締役8名,監査役3名の選任を求める会社側提案を記載した株主総会の招集通知と議決権行使書面を送付しました。
どちらの提案が承認されるかによって経営陣が入れ替わるという熾烈な争いです。
会社側は,株主提案議案と会社側提案議案を別々の議案として取り扱い,会社側提案の審議に際して,IDECが集めた委任状にかかる議決権数を出席議決権数に含めず,それを前提として会社側提案が可決承認されたものと扱いました。
東京地裁は,両議案は,いずれも取締役8名,監査役3名の選任を求めるものであるから議題としては共通であり,株主提案に賛同した株主は,会社側提案に賛同することはできないから,委任状にかかる議決権数を出席議決権数に含めなかった会社の取り扱いは違法であると判断しました。
会社側は,IDECによる委任状の勧誘書面に会社側提案への賛否欄がないこと等から,勧誘内閣府令違反であり,当該委任状は無効であるとも主張しましたが,裁判所は,本件では,IDECの委任状勧誘後に株主総会招集通知が発送されており,委任状勧誘時に会社側提案への賛否欄の記載を要求するのは酷であり,これを有効としても勧誘内閣府令が守ろうとした株主の利益は害されないと判断しました。
株主にQuoカードのような小額の金品を交付することが利益供与に該るかという論点は,次号で解説します。
参照:会社法831条,341条,120条1項
商事法務 No1819,1820
2 著作者人格権とは?
昨年,「国宝・彦根城築城400年祭」のイメージキャラクターである兜をかぶったネコ「ひこにゃん」について,キャラクター作者である「もへろん」さんが,彦根市と祭の実行委員会を相手方として,400年祭終了以降の使用禁止の民事調停を申し立てました。
彦根市は,キャラクターの一切の著作権は実行委員会に帰属することを明記して応募を募り,「もへろん」さんは「ひこにゃん」を投稿して採用されました。彦根市は,祭典終了後,「ひこにゃん」を住民登録するとともに商標登録申請を行い,第三者に対して,もともとの図柄以外の類似デザイン商品の販売を許諾しました。
「もへろん」さんはこのような利用が募集要項に違反し,キャラクター管理が適切に行われていないとして申立を行った模様です。
著作権法の世界では,応募要項に「一切の著作権は実行委員会に帰属する」と記載されていても,著作物を改変する権利(法27条)は,特に「著作権法27条の権利も譲渡する。」と特掲されていなければ移転しないので,応募要項がそのように注意深く作成されていなければ,実行委員会は著作物を改変したり,改変を許諾することは許されません(法61条1項)。
そして,「もへろん」さんは「著作者人格権」に基づいて,著作物を無断で改変してはならないと主張することができます(法20条)。
応募要項に「一切の著作権は実行委員会に帰属する」と記載されていても,実行委員会が著作者人格権を取得することはありません。「著作者人格権」は,人格的利益なので第三者に譲渡することはできず(法59条),例えば,東海林さだおさんから「タンマくん」の著作者人格権を買い取って「タンマくん」の原作者になることはできません。
著作者に著作者人格権を行使させたくないときは,著作者人格権不行使の特約を結ぶべきです。
一部報道によれば,「もへろん」さんは,作者が意図しない「ひこにゃんはお肉が好物で,特技はひこにゃんじゃんけん」という性格付けを行ったことについても彦根市を批判しているようです。
しかし,著作者人格権である同一性保持権は,「もへろん」さんが創作した「デザイン画そのもの」の改変を禁止する権利であるにとどまり,デザイン画に表現されているわけではない「作者が意図した当該キャラクターの性格付け」までは保護されないと思われます。
あえて法的主張として組み立てるとすれば,民法上の不法行為(民法709条)を根拠とするものと思われますが,「お肉が好き」という性格付けが,果たして「不法行為」とまで言えるのかどうか・・・。
参照:著作権法18条〜20条,59条,21条〜28条,61条,
民法709条
商願2007-27090号「特許電子図書館」
http://www1.ipdl.inpit.go.jp/syutsugan/TM_DETAIL_A.cgi?0&1&0&1&1&1200901683
3 退職慰労金代わりのストックオプション支給企業が増加しています
平成19年は,取締役に対して退職慰労金の代わりにストックオプションを支給する上場企業が,前年に比べて40パーセントも増加し,158社となりました。
退職慰労金制度は,支給額の算定方法を株主総会で決議し,具体的な支給を取締役会に任せるのが通例であることは前回のニュースレターに記載したとおりですが,この方法は,特に外国の機関投資家等に不評で,金銭での退職慰労金支給事例は減少傾向にあります。
現金の代わりに権利行使価格を1円とするストックオプションを支給すると,自社株の価値がほぼそのまま報酬額になり,株価が上昇すれば退職金が増え,逆に下落すれば減少します。したがって,経営陣に企業価値を高めるインセンティブが働くため,株主にも受け入れやすいといわれています。
また,ストックオプションを退職後一定期間が経過するまで権利行使できないように設計しておけば,取締役が退任後に競業行為や秘密漏洩を行うことに対する抑止力にもなります。取締役が企業価値を毀損すれば,その取締役はストックオプションを行使できたとしても会社の株価が下落して,その取締役も不利益を蒙るからです。
4 講演会「ベンチャーって,面白い?」のご案内
ニュースレターvol 13でご紹介した無料講演会「ベンチャーって,面白い?」(2月7日18:30〜)は,30席用意致しましたが,現在,若干の空席があります。
参加をご希望の方は,件名「2月7日講演会参加」として,お名前,ご所属,ご連絡先メールアドレスをご入力の上,info@v-support.jpにメールにてお申込ください。
テーマ:「ベンチャーって,面白い?」
講 師:住信インベストメント株式会社 辻 俊彦 氏
(「愚直に積め! キャピタリストが語る経営の王道99」(東洋経済新報社)著者)
http://www.7andy.jp/books/detail?accd=R0312984
日 時:2008年2月7日 18:30〜
場 所:弁護士会館5階 507ABC
弁護士会館地図 http://www.toben.or.jp/abouttoben/map.html
参加費:無料
主 催:ベンチャーサポート研究会
//v-support.jp/what/kouen/kouengaiyou.html#070207(サイトは閉鎖されました)