今回は,取締役の退職慰労金に関する裁判例のご紹介,セクハラに対する会社の事前対策と事後対策のあり方,辻俊彦氏による講演会「ベンチャーって,面白い?」(主催:ベンチャーサポート研究会)のご案内,および当事務所に入所した新人弁護士のご紹介をお送りします。
1 判例紹介―退職慰労金が予想外に低額だった場合,退職取締役は損害賠償請求できるか?
取締役の退職慰労金についての株主総会決議の妥当性について,原則として,裁判所の判断は回避されるべきであるとの姿勢を示した裁判例をご紹介します。
2 セクハラに対する会社の事前対策と事後対策のあり方
セクハラに関し,会社はいかなる事前対策・事後対策をとるべきかについて,厚生労働省のガイドラインをご紹介します。
3 講演会「ベンチャーって,面白い?」のご案内
2月7日(木),辻俊彦氏による講演会「ベンチャーって,面白い?」(主催:ベンチャーサポート研究会)を開催します。奮ってご参加ください。
4 新人弁護士が入所しました
本年1月4日に当事務所に入所した新妻佳代弁護士をご紹介します。
1 判例紹介―退職慰労金が予想外に低額だった場合,退職取締役は損害賠償請求できるか?
株主総会決議において,退任取締役に対する退職慰労金が当該退職取締役の予想よりも低額に決定された場合,当該退任取締役は,現取締役に対し,低額の退職慰労金額を株主総会に提案したことを理由として損害賠償請求できるでしょうか。
本件の事案の概要は以下のとおりです。
X社の現取締役らは,株主総会に対して,退任取締役Aに対する退職慰労金に関する議案を上程するにあたり,「業績低迷の原因はAの任務懈怠にある」として,その金額を130万円とし,株主総会はこれを賛成多数で可決しました。
Aは,自分には業績低迷に関する責任はなく,そのような虚偽の主張をした現取締役らの議案提出行為は任務懈怠であるとして,現取締役に対して3300万円の損害の賠償を求めて提訴しました(会社法429条)。
取締役が,役員報酬,ストック・オプション,退職慰労金といった財産的利益を会社から受ける場合には,定款にその定めがない限り,株主総会決議によってこれを定めるとされています(会社法361条1項)。これは,報酬等を受取る立場にある取締役が,自己の利益を図って過大な報酬等を受け取ること(お手盛り)を防止し,会社に損害を与えないようにすることを趣旨とするものです。
このため,総会は報酬総額の上限を定め,個々の取締役の報酬の決定は取締役会に委ねることができ,実務的にもそのように運用されているのが通例です。したがって,取締役に関する退職慰労金規程があり,株主総会がこれを承認している場合には,退職慰労金を支給する度に総会決議をする必要はなく,規程に基づいて退職慰労金を支出することができると解されます。しかし,退職慰労金の支給が頻繁に行われるものではないこともあって,実務上はその都度上程する例が多いようです。
以上は,退職慰労金規程がある会社における退職慰労金の支給についての話ですが,本件で問題となっているX社は,退職慰労金規程がない会社であり,Aは,総会で決議された退職慰労金の金額が不当に低いと主張しました。
東京地裁は,取締役報酬に関する株主総会の決議内容の当否について,「裁判所が経営評論家のような立場から論評を加え,妥当性の判断を示すことは,わが国の法制度の予定しないものである」として,本件のような退任取締役の損害賠償請求は,特段の事情のない限り法律上許されないものであるとして,訴えを棄却しました(東京地裁平成19年6月14日判決)。本件は,現在控訴中です。
この考え方によれば,過去の退職取締役が多額の退職慰労金を受け取ってきた経緯があり,取締役に相当の退職慰労金が支給されることを期待していたとしても,株主総会は特定の取締役にわずかな退職慰労金しか支給せず,或いはまったく支給しないことも許されます。
その結果,本件のような紛争になることは,会社と役員双方にとって望ましいことではありません。これを避けるためには,退職慰労金規程を設けて,株主総会の承認を受けておくことが望ましいと思われます。その場合,業績悪化や任務懈怠があったときには金額を減額できるようにしておき,会社の利益も守られるようにしておくべきです。
なお,先のニュースレター(vol.11)でご紹介した判例(最高裁平成19年11月16日判決)は,本件と異なり執行役員の退職慰労金の事案ですので,会社法361条は適用されず,株主総会決議は問題となりません。
参照:会社法429条 361条1項
東京地裁平成19年6月14日判決(判例時報1982号149頁)
最高裁平成4年12月18日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/7BA12B47439F564949256A8500311E7A.pdf
最高裁平成19年11月16日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071116154706.pdf
2 セクハラに対する会社の事前対策と事後対策のあり方
最近「セクハラ」や「パワハラ」に関する相談や,ヘルプラインの窓口業務の依頼が増えています。雇用の流動化により中途採用の社員が増え,これまで風土や環境が全く違う職場で働いていた者が,ある日突然同じ職場で働くという機会が増えたことに原因の一つがあると思われます。
平成19年4月,雇用機会均等法が改正・施行されました。この改正は,マスコミ的には,女性だけでなく,男性もセクハラの対象になった点が話題になりました。
しかし,コンプライアンスの観点からは,事業主に対するセクハラ対策の強化を義務付けている点が重要です。
厚生労働省は,同法11条2項を受けて「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上構ずべき措置についての指針」を定め,事業主に対して大きく分けて以下の3つの措置を講ずるよう義務付けています。
(1) 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
事業主は,就業規則などにセクハラの内容とその禁止を規定し,セクハラを行った者に対する懲戒規定を定め,これらの内容を労働者に周知・啓発しなければなりません。
(2) 相談(苦情)に対し,適切に対応するために必要な体制の整備
会社の内外に相談窓口を設置し,相談窓口の担当者が相談に対し,その内容や状況に応じ適切に対応できるような体制の整備が必要になります。
(3) 職場におけるセクハラに係る事後の迅速かつ適切な対応
相談を受け付けた場合,相談者・行為者の双方から事実関係を確認し,事実の確認が十分にできないと認められる場合には,第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずることが必要です。
そして,セクハラの事実が確認できた場合には,行為者に対する措置及び被害者に対する措置をそれぞれ適正に行うことが必要です。
例えば,行為者に対しては,就業規則等の規定に基づいて懲戒その他の措置を講じるとともに,事案の内容や状況に応じ,被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助,被害者と行為者を引き離すための配置転換,行為者の謝罪,被害者の労働条件上の不利益の回復等の措置を行うことが考えられます。
法的には,セクハラを行った社員が損害賠償責任(民法709条)を負うのは勿論ですが,会社も使用者として賠償責任を負うことになります(民法715条)。それだけでなく,特に前記(3)の事後的な対応の不備については,単なる使用者としての責任だけでなく,「職場環境配慮義務」違反として,会社自身の債務不履行責任(民法415条)や不法行為責任(民法709条)が問われる裁判例が増えています。
就業規則の整備など事前の措置を行うことは勿論ですが,セクハラが起きてしまった場合には,会社にとっては,適正に事後の対応を行うことが重要です。このような対応を円滑に行うためには,前記(2)の体制の整備として,適切でわかり易い内容のマニュアルを作成し,担当部署に周知しておきましょう。
参照:民法709条 同715条 同415条
厚生労働省「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上構ずべき措置についての指針」
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/kaiseidanjo/dl/05a.pdf
3 講演会「ベンチャーって,面白い?」のご案内
ベンチャーサポート研究会では,ベンチャーキャピタリストとして10年以上にわたりおよそ100社のベンチャー企業と関わった辻俊彦さんをお招きし,ベンチャー企業が成長するポイントや,ベンチャー企業で働く本当の楽しさについてお話を伺います。
あわせて,我が国において,新しい産業を創造する必要性や,社会の閉塞感を打破するイノベーションの推進について,意見交換する場にしたいと思います。
詳しくは,ベンチャーサポート研究会ホームページでもご案内しています。
//v-support.jp/what/kouen/kouengaiyou.html#070207)
多数の方のご参加をお待ちしております。
※事前の参加申込が必要です。詳しくは下記をご覧ください。
テーマ:「ベンチャーって,面白い?」
講 師:住信インベストメント株式会社 辻 俊彦 氏
(「愚直に積め! キャピタリストが語る経営の王道99」(東洋経済新報社)著者)
http://www.7andy.jp/books/detail?accd=R0312984
日 時:2008年2月7日 18:30〜
場 所:弁護士会館5階 507ABC
弁護士会館地図 http://www.toben.or.jp/abouttoben/map.html
参加費:無料
申 込:参加をご希望の方は,件名「2月7日講演会参加」として,お名前,
ご所属,ご連絡先メールアドレスをご入力の上,下記アドレスまで,
メールにてお申込ください。
参加申込メールアドレス info@v-support.jp
主 催:ベンチャーサポート研究会
//v-support.jp/what/kouen/kouengaiyou.html#070207
4 新人弁護士が入所しました
本年1月4日,新妻佳代(にいつま かよ)弁護士が当事務所に入所しました。
新妻弁護士は,平成11年に東北大学を卒業し,平成18年に中央大学法科大学院を修了しました。
法科大学院は,司法制度改革の一環の新しい法曹養成制度として平成16年にスタートした専門職大学院で,理論教育と実務教育の架橋として,法曹養成に特化した教育がなされています。新妻弁護士はその一期生です。
その後,平成18年の新司法試験に合格し,平成19年12月に司法研修所における修習を終了しました。
各位の今後のご指導をお願い申し上げます。
<<新妻弁護士からのご挨拶>>
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1月4日に当事務所に入所し,弁護士としての第一歩を踏み出しました。
法科大学院では,特に独占禁止法について,判例・審決の事例研究のゼミを履修するなど,力を入れて勉強してきました。勉強の成果を業務に活かせるよう,更なる研鑽を重ねて参ります。
依頼者の皆様の,ひいては社会のお役にたてるように,何事にも全力で取り組み,日々スキルアップしていきたいと思います。
何卒よろしくお願い申し上げます。
https://www.clairlaw.jp/staff/
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