今回は,去る12月18日の最高裁判決「映画シェーン事件」,「チャップリン映画事件」(東京地裁8月29日判決),「映画生きる事件」(東京地裁9月14日判決)を題材に,映画の著作権の保護期間についてご紹介します。
1 判例紹介―映画「シェーン」判決
「53年問題」として注目されていた,昭和28年(1953年)に製作された映画の廉価版DVDの無許可製造・販売が,著作権侵害になるかどうかについての最高裁判例をご紹介します。
2 判例紹介―チャップリン判決(東京地裁8月29日判決),映画「生きる」判決(東京地裁9月14日判決)
「シェーン」と同様に,チャップリン及び黒澤明監督の映画も著作権の存否をめぐって裁判となりました。その概要と,「シェーン」との違いについてご紹介します。
3 ニュースレターvol.11についての補足説明
先のニュースレター(vol.11)でご紹介した,銀行の自己査定資料の開示を求めることができるかに関する判例について,若干の補足説明をいたします。
4 佐藤弁護士の記事が掲載されました
佐藤未央弁護士の記事が,WEBサイト「@IT自分戦略研究所」に掲載されましたのでご紹介します。
1 判例紹介―映画「シェーン」判決
最高裁は,去る12月18日,昭和28年に製作された映画の著作権は,平成15年に改正された著作権法の存続期間の延長の適用をうけず,無許可で廉価版DVDとして製造・販売しても著作権侵害にならないと判断しました。昭和28年(1953年)は,洋画,邦画ともに名作が多いため「53年問題」として注目されていました。
米国の国家戦略的な働きかけもあって,著作権の保護期間は世界的に延長される傾向にあります。米国内では,ウォルトディズニーなどのロビー活動によって著作権の保護期間は繰り返し延長されており,改正法はミッキーマウス保護法などと揶揄されています。
わが国の旧著作権法(明治32年)は,映画製作会社のように団体名義で公表された映画の著作権は33年間保護されるとしていました。
「シェーン・カンバック」のラストシーンで有名な映画「シェーン」が昭和28年に製作された後,現行著作権法(昭和45年)は,既に著作権が消滅したものを除き,映画の著作権の保護期間を公表から50年に延長しました。著作権の保護期間は公表された年の翌年から起算するため(著作権法57条),シェーンの著作権は平成15年12月末まで延長されました。
平成15年に同様の改正がなされ,既に著作権が消滅したものを除き,著作権の保護期間は70年に延長されましたが(著作権法54条,附則2条),この改正法は平成16年1月1日から施行されました。
文化庁は,平成15年12月31日まで著作権が有効な作品について,平成16年1月1日に施行された改正著作権法の適用があるとの見解を示していたため,改正法の適用の有無をめぐって法廷闘争になりましたが,最高裁は,シェーンの著作権は施行日の1日前に消滅したものとして法改正の適用はないと判断しました。
参照:最高裁平成19年12月18日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071218155544.pdf
2 判例紹介―チャップリン判決(東京地裁8月29日判決),
映画「生きる」判決(東京地裁9月14日判決)
平成19年には,チャップリンの「ライムライト」や,黒澤明監督の「生きる」も著作権の存否をめぐって裁判になりました。
旧著作権法では,独創性のある映画(ニュースなどを除く趣旨)については,著作の主体が団体でなく,個人の実名によるときは,著作者の死後38年にわたって保護されると規定しており,新法は旧法による保護期間を短縮しないため(附則7条),実名著作物と認定された映画の著作者の没年によっては,保護期間が終了していない場合があります。
シェーン事件では,著作者は米映画会社であると認定され,団体著作物の著作権保護期間の定めが適用されましたが,この判決によって,昭和28年以前に製作された映画の著作権が全て消滅することになるわけではありません。
昭和27年に公表された映画「ライムライト」は,監督でもあるチャップリンが映画の著作者であると認定され,旧法によれば,チャップリンの没年を基準として平成27年末まで保護されるが,そうであれば,新法施行時である平成16年1月に著作権は消滅していないから,公表から70年である平成34年末までが保護期間となると判断しました。
「生きる」事件では,黒澤監督が著作者であると認定され,旧著作権法における団体著作物の著作権存続期間の定めは適用されず,黒澤監督の没年である平成10年を基準として平成48年末まで著作権は保護されるとしています。
参照:チャップリン判決(東京地裁平成19年8月29日判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070830144013.pdf
映画「生きる」判決(東京地裁平成19年9月14日判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070919115951.pdf
3 ニュースレターvol.11についての補足説明
先のニュースレター(vol.11)で,銀行の自己査定資料の開示を求めることができるかに関する判例をご紹介する中で,当該資料は民事訴訟法220条4号ハにも該当しないとの判断が下されると思われるとのコメントを記載しましたが,この点につき,若干の補足説明を致します。
最高裁平成12年3月10日決定では,「技術又は職業の秘密」(同法220条4号ハ・197条1項3号)について,その事項が公開されると,当該技術の有する社会的価値が下落し,これによる活動が困難になるもの,または当該職業に深刻な影響を与え,以後その遂行が困難になるものをいうとしたうえで,情報の種類・性質,開示することによる不利益の具体的内容によって認定すべきとの判断が示されています。
個別具体的な検討を要するとする上記判断によれば,類似の事例で同法220条4号ハには該当しないとの判断が下されているとしても,本件も不該当とは必ずしも言い切れず,先のコメントは,予測の範囲を出るものではありません。
この点につき,差戻審がどのような判断を下すか,今後も注目していきたいと思います。
4 佐藤弁護士の記事が掲載されました
佐藤未央弁護士の記事が,WEBサイト「@IT自分戦略研究所−スキルとキャリアをじっくり考えたいITエンジニアのために」に掲載されました。
ITエンジニアの経歴を持つ佐藤弁護士が,弁護士としての1歩を踏み出すまでが紹介されています。
また,なかなか理解しづらい司法試験のシステムや,人員増加が求められている法曹界の現状についても参考になる情報が掲載されています。
ぜひご覧ください。
参照:「ここでも生きる!エンジニア経験 第3回 ITエンジニア経験を生かし法律のプロに!」
http://jibun.atmarkit.co.jp/ljibun01/rensai/kokodeiki03/kokodeiki01.html