1 判例紹介‐個人情報保護法25条を根拠として個人情報の開示を求めることはできません
2 判例紹介‐労災保険事故にあたるかどうかを判断した事例
3 リサイクル品を巡る特許紛争のこれから
1 判例紹介‐個人情報保護法25条を根拠として個人情報の開示を求めることはできません
個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)という法律の名称から,個人情報の保護を強化するための法律だと受け止めている人も少なくないと思います。
しかし,同法1条にあるとおり,この法律は,「個人情報の有用性に配慮しつつ」個人情報を守ろうとするもので,個人が自分の情報をコントロールする権利と,個人情報の利用によって享受されている社会的な便益の調和を図ろうとするものです。
そして,このような個人情報保護法の趣旨や,この法律が国や一定の事業者が行うべきルールを定める体裁のものであるため,同法を根拠にして個人情報の開示等を求めることはできないと解釈されています。
東京地方裁判所は,平成19年6月27日,このような考え方に基づいて,被告の診療所で診療を受けた原告ら2名が,被告に対し,個人情報保護法25条等に基づき,自己の診療録の書面による開示等を求めた事案について,裁判上の請求権を否定しました。
ただし,企業側は,いたずらに開示を拒むような対応をするべきではありません。個人情報をコントロールする権利は,人の幸福にとって基本的な権利です。法的義務があるか否か,あるいは当該団体が個人情報取扱事業者(個人データを5000以上保有する団体,このような団体が個人情報保護法による義務を負う。)にあたるか否かにかかわらず,十分な配慮に基づいた対応をするべきでしょう。
参照:個人情報の保護に関する法律25条1項
2 判例紹介‐労災保険事故にあたるかどうかを判断した事例
建設業に従事する者の労働者性に関し,平成19年6月28日,最高裁判所の判断が下されましたので,ご紹介します。
事案は,大工であるXが,工事作業に従事中,右手中指から小指までを切断する傷害を負うという災害に遭ったことについて,労働者災害保険法(労災保険法)に基づく療養保証給付等を求めたところ,労災保険法上の労働者ではないという理由により不支給処分を受け,その取り消しを求めたものです。
最高裁は,Xは,仕事の内容について自分の判断で工法や作業手順を選択していたこと,工期に遅れない限り作業時間は自由だったこと,委託元はXが他の工務店等の仕事をすることを禁じていたわけではなかったこと,報酬の取り決めは完全な出来高払いが中心とされ,Xは,請求書によって報酬を請求し,その報酬も相当程度高額だったこと等を指摘し,Xは,労災保険法上の労働者に該当しな
いとしています。
労災保険法における「労働者」とは,労働基準法における「労働者」と同義とされるところ,同法9条は,「労働者」を,職業の種類を問わず,同法8条の事業又は事業所に使用される者で,賃金を支払われている者と定めています。そして,「労働者」というには,「指揮監督下の労働」という労務提供の形態と,「賃金の支払」という報酬の労務に対する対償性の2つの基準(使用従属性)で判断すべきと解されています。
この2つの基準は,建設労働者以外にも適用されますので,請負労働者を使用している企業は,請負を含む労務管理に問題がないかどうかを改めて検討してみるとよいと思います。
参照:労働者災害保険法 労働基準法8条,9条
最高裁判例
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070628130249.pdf
3 リサイクル品を巡る特許紛争のこれから
形式的には侵害行為に該当する場合でも,特許実施品が権利者により適法に流通に置かれた場合,当該物に関するかぎり,特許権はすでにその目的を達しており,その物については特許権は消尽し,その後の譲渡,使用等の行為に及ばないとすることを特許権の消尽といいます。
キャノン製インクカートリッジの再生品を巡る特許訴訟で,相手方は特許権の消尽を主張しましたが,最高裁判所はこれを認めず,平成19年11月8日,特許権侵害を認定しました。これを受けて,キャノンは,提訴対象品だけでなく,広く再生品一般に侵害の可能性が広がったと見ています。
一方,同判決の翌日,セイコーエプソンが起こした特許侵害訴訟に対しては,最高裁判所決定で敗訴が確定しました。しかし,セイコーエプソンも,最高裁基準が広く再生品に網をかけると,キャノンと同様の見方をしています。
これに対し,キャノンの相手方となったリサイクル業者側は,提訴対象品の販売は中止したものの,再生手法を変えて販売を継続しています。また,当該判決はあくまで個別商品についての判断で,最高裁は改訂版商品についてまで特許権侵害を認めたわけではないとの見解を示しています。セイコーエプソンの相手方も,販売は見直さないとの見解を示しています。
「判決は個別判断」との主張に加え,リサイクル業者が強気な姿勢を崩さない理由は他にもあります。最高裁の侵害判断基準に「取引の実情」との表現が含まれていることです。リサイクル業者側は,最高裁もリサイクル品に一定の理解は示したとして,今後他の再生品で裁判が起きても十分争う余地があるとしています。
製品ごとに特許も再生手法も異なり,これからの各訴訟で最高裁判決がどう解釈されるのかが重要とするメーカーもあり,リサイクル品を巡る特許紛争は今後活発になる可能性もありそうです。
参照:最高裁判例
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071108162351.pdf