1 労働者の募集・採用時の年齢制限撤廃へ
2 労働審判制度の申立件数が開始後1年間で1,163件に
3 TBS vs 楽天 会計帳簿閲覧・謄写請求事件
1 労働者の募集・採用時の年齢制限撤廃へ
平成19年10月1日から労働者の募集・採用の際に年齢制限を設けることができなくなりました(雇用対策法10条)。
これまで,募集・採用時に年齢制限を設けないことについては努力義務とされてきましたが,依然として年齢制限が設けられている求人が多く,高齢者や年長フリーターなど,一部の労働者の応募の機会が奪われているのが実情でした。このような状況を改善し,働く機会がより均等に与えられることを目指して雇用対策法が改正され,労働者の募集・採用の際に年齢制限を設けることができないことになったのです。これは,公共職業安定所(ハローワーク)を利用して募集・採用を行う場合はもちろん,民間の職業紹介事業者や求人広告などを通じて募集・採用する場合や,雇用者が直接に募集・採用する場合にも適用されます。
年齢制限を設けることができないのが原則ですが,合理的な理由がある場合には例外的に年齢制限を設けることが認められます。
参照:厚生労働省 募集・採用に係る年齢制限の禁止の義務化について
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/other16/dl/index03.pdf
2 労働審判制度の申立件数が開始後1年間で1,163件に
労働審判制度とは,会社と労働者個人との紛争を迅速に解決するために,2006年4月から開始された新しい制度です。
この制度の特徴は,最大でも3回の期日で審理を終了し審判を下す,という迅速さにあります。
最高裁判所は,2007年5月26日,労働審判制度の利用状況(07年3月末現在)の速報を発表しました。これによると,各地方裁判所への労働審判事件の申立件数は1,163件で,このうち919件の審理が終了しています。調停の成立による解決が644件で,労働審判によるものは162件でした。事件の種類別に見ると,地位確認(解雇等)が454件,賃金・退職金が318件となっています。申立から審理終了までの平均日数は74.2日でした。
労働審判事件は,ほとんどが労働者による申立てであり,使用者は相手方として受け身の立場になります。申立てに即座に対応できるよう,紛争になることが予想される場合は,あらかじめ証拠の整備をしておくことが必要です。
3 TBS vs 楽天 会計帳簿閲覧・謄写請求事件
楽天メディア・インベストメント(楽天の子会社)がTBSの会計帳簿の閲覧・謄写(会社法433条1項)を求めた訴訟で,東京地裁は9月20日,「親会社の楽天を含めてTBSと実質的に競争関係にある」として楽天側の訴えを棄却しました。
楽天側は,「2005年10月に楽天が業務提携を提案した後,TBS取締役会が安定株主工作として巨額の有価証券の取得を進めた疑いがある」として帳簿の閲覧等を求めていたものです。
会社法では,総株主の議決権の3%以上の議決権を有する株主または発行済株式の3%以上を持つ株主(請求者)に会計帳簿閲覧等の請求権を認める一方(会社法433条1項),請求者が競合事業を営んでいる場合などには会社側は請求を拒否できると規定されています(会社法433条2項各号)。
本件訴訟に先立ち,仮処分命令の申立てがなされていますが,会社側に請求拒否事由はないものの,仮処分により必要書類の閲覧・謄写をさせるべき緊急の必要性がないとして楽天側の申立ては却下されています。その後,楽天側は抗告をしましたが,上記訴訟と同様な認定により,会社側が請求を拒否できる場合に該当するとして棄却されています。
会計帳簿の閲覧・謄写を求める仮処分命令の申立てにおいては,会社側の帳簿閲覧請求拒否事由の有無に加え,保全の必要性(仮処分により閲覧・謄写をさせるべき緊急の必要性)が問題となります。
保全の必要性は,抽象的には,株主側の損害と会社側の損害を比較衡量し,会社側の被るおそれのある損害を考慮しても,なお株主側の損害を避けるため緊急の必要がある場合に限って認められるとされていますが(東京高裁平成13年12月26日判決),投資先や業務提携先の情報等も含まれる会計帳簿の重要性に鑑み,帳簿が開示されることにより会社が被る不測の損害が大きいため,このような仮処分命令の申立てにおいて,保全の必要性が認められるケースはかなり少ないと考えられます。
また,競争事業を営んでいるかの点については,実質的な判断が求められ,単に株主である請求者と会社の業務の競争関係だけでなく,株主が完全子会社で,その親会社と一体的に事業を営んでいると評価できるような場合には親会社も含めて競争関係があるかどうかが判断されることになります。