創刊号には,たくさんの方から「期待しています!」,「頑張ってください。」などのご連絡を頂きました。担当者一同とても喜んでいます。 m(__)m
「取締役に不祥事を公表する義務があるか」という記事に関しては,「他の取締役が暴走してしまうときはどうしたらよいでしょうか?」という質問もいくつかお寄せ頂きました。
不幸にしてそのような立場になったときは,取締役会の招集,監査役への報告などの手続があります(366・357 条)。取締役が株主でもあるときは,株主としての立場で差し止め請求をする途もあります(360条)。
現実に実行するのは大変かもしれませんが,やるべきことはやらなければなりません。
今後とも,ご意見,ご質問をお待ちしています。
今回は「企業内容等の開示制度」(日本版SOX法)についてご紹介します。
この制度は,「莫大な費用がかかる」といったように,立法の趣旨が歪められて報道されているので,基本を確認したいと思います。
1 「企業内容等の開示制度」(日本版SOX法)の背景
2 「企業内容等の開示制度」(日本版SOX法)とは何か
3 どのように準備したらよいか
4 重装備の文書化は必要か
1 「企業内容等の開示制度」(日本版SOX法)の背景
エンロン事件(2001年12月)からワールドコム事件までの半年間に,これらの不正会計事件の影響によって,米国の証券市場は,時価総額が8兆円も下落しました。このような危機状況に対する火消し立法としてやや極端な態度をとったのが米国SOX法(企業改革法)でした。
日本でも,西武鉄道,カネボウ,ライブドアなどの事件が証券市場にダメージを与えたため,「結果だけでなく作成されるプロセスも健全な決算書を作る」ことを実現するために,上場企業に対する「財務報告に係る内部統制制度の構築」を義務づけることになりました。
ただし,日本では,企業に対して過剰な経済的負担を強いることになった米国SOX法の轍を踏まないように,重装備の制度にならないように配慮されています。
立法に関与した企業会計審議会の八田部会長や金融庁の池田企業会計課長は,「我が国の制度が米国と同一との誤解を誘発するので,日本版SOX法とかJ−SOXという言葉は使いません」と言っています。
2 「企業内容等の開示制度」(日本版SOX法)とは何か
背景から判るとおり,この法律の目的を一言でいうと「上場企業の粉飾決算の防止」です。
「企業内容等の開示制度」は,具体的には以下のルールから構成されています。
(1)2006年6月7日に成立した金融商品取引法(証券取引法等の改正)のうち,「有価証券報告書の記載内容が適性であることの確認書」や「内部統制報告書」の提出を義務づける同法24条の4の規定等
(2)内閣府の制定する内部統制府令(案)
http://www.fsa.go.jp/news/18/syouken/20070517-1/01.pdf
(3)企業会計審議会が設定した実施基準
http://www.fsa.go.jp/news/newsj/17/singi/f-20051208-2.pdf
内部統制報告書は、一般に公正妥当と認められる内部統制の評価の基準に従うものとされているので,(3)の基準がそのモデルを示しています。
基準の内容は,至極もっともなものであり,書店にあふれている日本版SOX法の本を読むよりも,(3)の実施基準を読んだ方が理解しやすいとさえいえます。
ちなみに,前掲の八田部会長は,大半の日本版SOX法の書籍(特に基準発表前に刊行されたもの)は,正しい理解を妨げるので読まないほうがいいと弁護士会の講演で話されていました。
3 どのように準備したらよいか
「企業内容等の開示制度」は,上場企業について,平成20年4月1日以降に開始する事業年度から適用されます(附則15条)。
日本法では,企業の負担を軽減するために,内部統制に関する監査は,その企業の財務諸表の監査を行っている公認会計士が行うこととされおり(財務諸表監査との一体監査),監査人は監査役,内部監査人と連携するものとされています。従って,適用年度の前期に入ったら,監査法人と内部統制の構築方法について協議し,助言を受けるべきです。内部統制の構築にはそれなりの準備が必要であり,監査法人も適用前年の試行期間は助言をし易いからです。
公認会計士協会も,監査人である公認会計士等は、被監査会社のプロジェクトの運営管理責任者及び構成員になることは自己監査になるので許されないが,経営者の責任において実施する作業に対して助言・指摘を提供できるとしています。
4 重装備の文書化は必要か
「粉飾決算の防止」という目的を実現するために,通常,会社は内部統制=「チェックの仕組み」を持っています。定期的に棚卸しをしたり,支払規程に基づいて,支払の度に上司の決済をとるのも内部統制制度の一部分です。
実施基準では,このような各企業の既存のチェック制度における記録等の存在を前提として,これを適宜利用し,必要に応じてそれを補ってゆけばよいとしています。前記の池田氏も「実施基準に文書化という文字は一度も出てこない。」と書いています(金融ファクシミリ新聞)。
「膨大な量のドキュメンテーションが必要」という誤解は,米国でSOX対応を経験した会計士やコンサルタントなどが,日本版も米国SOX法と同じと思い込んだことによるものです。
内部統制は,大きく分けて,基本方針,組織図,モニタリング体制などの「全社的な内部統制」と,「個々の業務プロセス」に関するチェック制度があり,後者のルールを文書の形で可視化する作業は手間隙がかかります。実施基準では,すべての業務プロセスのうち,重要性の低いものを評価対象から外すことや,既存のチェック体制の利用よって負担の軽減を図っています。
社歴の浅いベンチャー企業では,基本的な社内規定が整備されていないところが多いと思います。そのような会社では,一から内部統制を構築しなければならないので負担が大きいかもしれません。