ニュースレター創刊のご挨拶
東京弁護士会の依頼に基づいてみずほ総研がまとめた「新時代の弁護士ニーズに関する調査報告書」(2007.Feb)によれば,顧問弁護士のいる企業の要望として,「法律事務所はもっと主体的に情報発信をして欲しい。」が14.5 ポイントありました。
そこで,事務所内で情報発信の方法について議論したところ,当事務所で月2回行っている新法令や判例についての勉強会を踏まえてニュースレターを刊行することにしました。
今後,第2および第4の水曜日の午後に発刊していきますので,記事についてのご意見・ご要望などがあれば,下記宛先にご遠慮なくお寄せください。
1 取締役に不祥事を公表する義務があるか
添加物混入問題を開示しなかったことを理由に,全取締役に対して,2億〜53億円の賠償責任を認めた事例
2 三角合併解禁に関する改正会社法施行規則について
三角合併時解禁(合併対価の柔軟化)については,総会決議要件を加重するか,開示を充実させるかが議論されてきましたが,平成19年4月25日に公布された会社法改正施行規則に
おいて,後者が選択されました。
3 発明者の範囲についての知財高裁の事例
調合・実験をおこなった従業員が発明に関与したという主張をしたのに対し,創薬の発明者の認定基準について判断した事例
1 取締役に不祥事を公表する義務があるか ダスキン事件
専務Aと平取Bは,平成12年11月,取引業者から未認可添加物TBHQがミスタードーナツの中華饅頭に混入していることを知らされましたが,当該業者に口止め料を支払い,販売を継続しました。
この事実は,翌12月には,社長ほかの役員の知るところとなりましたが,これらの役員は,「自ら積極的に公表しない」方針をとりました。
大阪高裁は,これに関する株主代表訴訟において,加盟店への営業補償費やキャンペーン費用106億円を会社の損害と認定したうえで,専務Aと平取Bに対し,連帯して53億の賠償義務を認め(1月18日判決),他の取締役に対して2億から6億弱の賠償義務を認めました(6月9日判決)。
原審である大阪地裁は,取締役の一部の者についての責任を否定していましたが,大阪高裁は,当該製品の販売終了後に事実を知った取締役についても,「食品販売事業者として,極めて重大な法令違反事実が明らかになった以上は,会社の信用失墜と損害を回避するための措置を講じなければ,取締役の善管注意義務違反となる」という趣旨の判断をしました。
後から知った役員にとって,不祥事の公表は同僚を告発することになるので,大変な心理的負担を負うことになりますが,公表を避ければ損害や社会的批判はより大きくなっていきます。
参照:大阪高裁平成19年1月18日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070524134634.pdf
同6月9日判決は未掲載
2 三角合併時解禁に関する改正会社法施行規則について
三角合併解禁に際して,総会決議要件を加重するか,開示を充実させるかが議論されていましたが,平成19年4月25日に交付された改正施行規則によって,後者が選択されました。株主総会参考書類の記載事項にかかる同規則86条等が改正され,記載すべき事項が拡張されているので注意が必要です。
三角合併の方法は,親会社の子会社に対する自己株式の譲渡,第三者割当(無償含む)などによって,子会社が親会社の株式を取得し,これを利用して合併を行う方法が典型例とされています。
親会社が外国会社である場合には,当該外国会社の所在地法による子会社の株式保有の制限などや,実際の割当において,株主が外国株式取扱口座を証券会社に持たなければならないことなど実施に際しては問題が多いこと,税制との関係では,合併比率によって端株が生じ,その処理のために金銭を交付すると適格合併にならないことなどから,外国親会社の株式を利用した三角合併はそれほど普及しないという見方もあるようです。
3 発明者の範囲についての知財高裁の事例
調合・実験をおこなった従業員が発明に関与したという主張をしたのに対し,知財高裁は,創薬の発明者の認定基準について概ね次の要素を総合的に考慮するべきであるとして,原告らの発明者性を否定しています。
(1)化合物の構造の研究開発に対する貢献
(2)生物活性の測定方法に対する貢献
(3)研究における目標の設定や修正に対する貢献
生物系研究者がどの程度,物質発明に貢献すれば,当該物質発明の「発明者」になるのか,抽象的には,技術的思想の創作行為に現実に加担したことが必要だということになりますが,本件は,具体的な事案にあてはめを行った事例として参考になります。
参照:知財高裁平成19年3月15日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070319090801.pdf