「日本版LLC(仮称・合同会社制度)」はどうなるか?

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東京弁護士会の会社法部にて、日本版LLCについて検討いたしましたので、そのサマリーをご紹介いたします。

LLC(Limited Liability Company)とは、出資者の有限責任を確保しつつ、内部関係の規律を柔軟に定めることができる会社として、導入が検討されている新しい会社類型です。経済産業省の報告によれば、米国ではここ5年間で株式会社が60万社増加する一方、LLCも約60万社増加しています。

これまでの産業構造や資本主義のあり方には、財産的な出資の割合を基準として会社のガバナンスや利益の配分を行う株式会社制度が適していましたが、情報の価値が飛躍的に高まり、専門的な知恵をもった人的資産が中心となる会社や、ジョイント・ベンチャーにおいては、社員の有限責任を確保しながら、機関のあり方や、収益の配分方法などを自由に決めることが求められるようにしたいというニーズが高まっています。
同省からは、以下のような事例が報告されています。

その1 モスキート投資銀行(ロバーツ・ミタニLLC)

元々大手金融機関に勤務した経験のある人間が集まって設立したモスキート(蚊のように小さい)投資銀行である。投資銀行の本質はファンドと同じで、「知恵とネットワーク」によるビジネスである。異なる経歴・能力を持つ人間が知恵を出し合い、チームとして投資事業を実施し、投資先ハイテク企業の企業価値を高めることにより、収益を得ている。出資者全員が業務に参加しており、資本だけを出す出資者は皆無である。大きな資本を必要とせず、人材の質が資本であることから、外部からの介入を防ぐためにLLCを選択している。
(参考文献:神谷秀樹、 2001、 「ニューヨーク流たった5人の『大きな会社』--我々の仕事の仕方」)

その2 コンサルティング業(Jam Japan Marketing LLC)

日米双方の市場進出に関して、ビジネスプランニング・マーケティング分野において知見を有する日本人と米国人が出資者となり、コンサルティングサービスを展開している。投下資本は特に必要なく、出資者の2名がそれぞれの能力である「ビジネスプランニング能力」、「マーケティングに関する知見」、「日本語能力」、「英語能力」、「クロスカルチャーでの企業の立ち上げ経験」を持ち寄り、高い付加価値を提供している。現時点では、事業規模を大きく拡大する必要がないため株式公開による資金調達は想定しておらず、出資者2人が業務執行の中心を担い、プロジェクトごとにその分野の専門コンサルタントを雇用契約して業務を実施する。そのため、機関設計がいらないLLCを活用している。

その3 日米自動車産業の合弁(GMICT LLC)

いすゞとGMが共同で、中型トラックの販売管理およびサービス管理を委託するためにLLCを設立。いすゞは米国での販売網の維持コストの効率化を主な目的とし、GMは販売店におけるマネジメントの向上を主目的とする。出資比率はいすゞが51%、GMが49%。いすゞは、代表的なトラックとともに、ディーラーのマネジメント手法とそれを熟知する従業員・ディーラー網を提供し、GM側は、ボンネットトラックの品揃えとともに、ディーラーが使うシステム(オーダー、顧客管理、ワランティの処理)、広範なディーラー網を提供している。収益の分配については、出資比率とは別に出来高制(GM車が売れた場合はGM側へ、いすゞ車が売れた場合はいすゞ側へ配分)を採用している。

会社法制の現代化に関する要綱試案によれば、日本版LLCは以下のように設計される予定です。

(1)会社の内部の関係

  1. 会社の内部の関係は、基本的に合名会社の規律に準ずるものとし、利益の分配・議決権の分配については内部自治にゆだねられる。
  2. 各社員は、やむを得ない事由があるときは、定款の定めにかかわらず、退社することができ、解散判決及び除名についても、合名会社と同様の制度を設ける。
  3. 原則として、社員全員が会社の業務を執行する権限を有するものとし、定款又は総社員の同意により社員の一部を業務執行者として定めることができ、法人も業務執行社員となることができる。

(2)会社の外部との関係

  1. 社員の出資については、金銭その他の財産に限り、全額払込制度を採用し、各社員はその限りにおいて責任を負うものとする(有限責任)。
  2. 貸借対照表及び損益計算書の作成を義務づけ、債権者にはそれらの閲覧請求権を与える。
  3. 剰余金の分配については、株式会社と同様の資本制度を採用し、株式会社と同様の財源規制を課す。
  4. 業務執行者の第三者に対する責任について、株式会社の取締役の第三者に対する責任の規定(商法266条ノ3参照)と同様の規定を設ける。
  5. 社員の退社による持分の払戻しについては、社員の退社による持分の払戻しについては、財源規制を適用せず(払い戻す価額は、会社の計算書類上の純資産額に拘束されない。)、退社に際して清算に準じた債権者保護手続を行う(試案のいわゆるb案)。

(3)パススルー課税について

米国LLCについては、米国内国歳入庁が、LLCを連邦税務上原則としてパートナーシップとして扱うことを認めている。LLCがコーポレーション並の課税を希望する場合は、IRSにその旨届け出ればよく、かかる届出が無い限り、パートナーシップとして扱われ、パススルー課税の適用を受ける。この点も、制度の利用に拍車をかけている一因であるが、新聞報道によれば、日本の財務省は、「例外をつくると、他の法人と税制上の整合性がとれない。」として消極的なようである。非適用になることによって、せっかくの制度の利用が促進されないことを考えられ、経済産業省では、法人ではないため、当然パススルー課税の対象となるLLP(有限責任事業組合)を平成17年度にも民法の特例として成立させることが報じられており、その場合には、LLPを利用する団体が増える可能性がある。
これらの制度が導入されるまでは、パススルーを重視するのであれば、民法組合や有責法に基づく投資組合、匿名組合などを利用し、全社員の有限責任を重視する場合には、有限会社、株式会社などを使っていくことになる。

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