【講演日】2003年6月4日
【ポイント】
株主構成の推移を背景とした最近の総会における議決権行使の傾向の説明と平成15年6月総会の展望と対策を説明します。
【備考】
会場:弁護士会館クレオ東京弁護士会会社法部主催,新規登録弁護士研修認定講座
【プログラム】
1.
(1) 株主構成の推移
(2) 平成14年までの6月総会の概況について
- 収集通知の早期化
- 集中状況
- 所要時間と発言数
- 機関投資家の動向
- 一般株主の発言内容
- ビジュアル化IR(インベスターリレイション化)
(4) 5月総会の概況
2. 6月総会の展望と対策
(1) 6月総会の展望
(2) 総会運営のあり方
【講演概要】
1.(1)株主構成の推移
株主の属性の変化が株主の会社に対する態度に影響を与えているという文脈で、「背景としての株主構成の推移」について、平成14年3月末時点での証券取引所の調査結果を見ると、1長・都・地銀の市場価格ベースでの株式保有率は、1.4ポイント低下(全投資部門中最大の低下幅)して8.7%となり、5年連続して調査開始以来の最低を更新したこと、2信託銀行の株式保有比率は、2.4ポイント上昇(全投資部門中最大の上昇幅)して19.9%となり、6年連続して調査開始以来の最高を更新したことが大きな特徴といえます。
信託銀行の数字のおよそ半分は年金信託と投資信託を含んだものです。投資信託、年金信託を除く金融機関は、昭和60年をピークとして比率が一貫して低下し、信託銀行を除く銀行の単元株ベースでの持株比率は、平成14年の14%から3年間で9.4%へと5.6%も減少しています。銀行の保有比率が一貫して低下してきた主因は、経営効率を向上させたり、株価変動の影響を受けにくくしたりするために、持ち合い株式を活発に売却したことにあります。ニッセイ基礎研究所が昨年の9月19日に公表した「持ち合い状況調査2001年度版」では、市場全体の持ち合い比率は11年連続で低下し、2001年度は対前年比9.4兆円持合株式が減少しており、市場全体の持ち合い比率は8.9%となっています。
これに対して、外国人、年金信託、投資信託などは増加してきました。外国人の持ち株比率が始めて10%台に乗ったのは1996年3月末のことで、その後も海外の年金資金や投機資金などが日本市場に流入し続けていたことや、日本オラクルなど東証への上場前に外国人が多く保有していた銘柄が上場したことが、比率上昇の原因になっています。持合株式が減少するということはいわゆる安定株主が減少することを意味します。加えて、年金や外国人などの機関投資家が増えるということは、株主の会社に対する監督や各種の権利行使が積極的になることを意味します。機関投資家は他人から資金を預かってそれを運用するために株式を購入しているので、受託者として投資対象に企業をチェックするべき責任を負っているし、機関投資家は保有株数が多いので、自分が特定の銘柄の保有株を売り始めると株価を下げてしまうから簡単に売却するわけにはいかないので、投資先に対する監督を強めていかざるをえないからです。
以上のように、持合の解消による株主構成の変化、とりわけ機関投資家の増加傾向は「モノ言わぬ株主」を減少させ、「モノ言う株主」を増加させました。
1.(2)平成14年までの6月総会の概況について
1 招集通知の早期化
法定期限の日に通知を発送する会社は減少し、早期発送する会社が増加しており、昨年の6月総会では、半数の企業が法定期限より前に発送を行っています。21日前に発送した会社は、住友林業、日本電気システム建設、日本配合飼料、三菱レイヨンなど69社があり、もっとも長い28日前に発送した会社には、ネットワンシステム、日興コーディアルグループ、メイテック、TISなど4社がある。招集通知の早期発送化の背景は、a安定株主比率の低下に伴う議決権行使促進のための諸施策の一つ、b外国人株主が議決権行使ガイドラインに基づく判断を行い、常任代理人との間の手続を履行するためには3週間程度必要であること、後に触れるISS(International Shareholder Services)が低い利益処分案などに反対を行っており、会社が外国株主との距離を縮めようとする動きもあります。
2 集中状況
総会の集中化は、平成8年がピークで、1864社のうち1755社で94.1%が集中日に開催し、集中日に開催しなかったのは109社しかありませんでした。平成11年から同14年の3年間で、株主総会集中日に総会を開催しなくなった会社は、全体の87.3%から77.1%へと約10%減少しており、株主総会期日については着実に分散化が進んでいます。ただし、会社数でみると平成14年6月でも4分の3が集中日に開催しています。
平成14年において発送期間を「21日(3週間)以上」として召集通知の発送を行っている会社のうち、集中日以外に総会を開催した会社は108社中30社(27.8%)となり、前年の20社(22.2%)と比較しても増加しています。会社の株主数と開催日の関係を見ると、株主数が多い会社に集中日離れの傾向が強いということができます。株主数が多いと会社の社屋以外の会場を確保する必要性がでてきますが、大きな会議ができる会場は限られているので、集中日をはずす必要があるということや集中日に開催することは不評であるなどが原因だと思われます。
3 所要時間と発言数
平成14年6月に株主総会を開催した上場会社のうち、所要時間が1時間超となったのは288社であり、前年の255社から23社増加しています。2時間を越える長時間総会も47社ありました。所要時間の長期化は、一般株主の出席者の増加傾向と発言数の増加を反映しているものです。発言者については、平成14年6月に株主総会を開催した上場会社2047社のうち、株主の発言のあった会社は802社であり、全体の40%を占めています。過去に遡ってみると、6月総会を行った会社全体に占める発言のあった会社の割合は、10年前には、8.4%、5年前は、18.9%、3年前は27.1%となっており、明らかな増加傾向が見られます。総会白書によると、平成14年に一般株主の総会での発言を歓迎するという会社は回答した1970社のうち、71.0%に及んでおり、会社側のこのような姿勢も発言を増やす原因になっていると思われます。
4 機関投資家の動向
国内では、信託銀行などの機関投資家は、平成10年頃から、不祥事を起こした役員に対する退職金支給議案などへどのように対処するかについてガイドラインを作成しています。
議決権行使に消極的だった厚生年金基金は、2000年4月に、資産運用・資産管理プロセスにおける受託者責任の項目で「委託者である基金の利益のために議決権を行使すべきである。」ことを公表し、平成15年2月20日付で「株主議決権行使基準」を作成して、平成14年から保有している株式のうち3000億円程度について直接議決権を行使するようになっています。この基準では、監督機能を有効に働かせるためには、社外取締役の登用や情報開示・説明責任の履行が必要であるとしており、連合会は、「コーポレートガバナンス原則」を定め、その原則に従って保有する全銘柄について議決権を行使するとしています。コーポレートガバナンス原則では、適切な事業計画もなく、必要以上に利益を留保する企業に対しては、適切な株主還元を求めるとも記載されています。年金基金は、例えば、特別決議の定足数を減少させる定款変更について、必要性や具体的な変更理由が無いケースや、発行規模が過大で株式の希薄化が懸念されるストックオプションの発行などについて反対しています。株主還元については、昨年5月の東京スタイルの定時総会が話題になりましたが、会社側の公表によると、株主提案についても、利益処分案の承認の件で35.2%、取締役2名の選任の件で41.6%の支持を得たと伝えられています。外国人について、まず、ISSという機関があり、ISSは、有力企業の株主総会における議決権を株主の立場から毎年定期的に調査・分析し、中立的な立場の機関として世界中の有力機関投資家にアドバイスを行っています。調査の手法は、まず各種メディアで問題視した企業を中心に、日本企業1600社の議決権行使の内容について、自前のガイドラインに基づいてチェックを行うもので全株懇の調査では、平成14年では調査対象会社の1970社のうち前年比で15.2ポイント高い56.3%の割合で議決権の不統一行使をしているとのことです。また、カルパース(カリフォルニア州公務員退職年金基金)、クレフ(大学職員退職金基金)なども同様にガイドラインに基づくチェックを行い、それに基づいて議決権行使を行っています。
5 一般株主の発言内容
発言数については、はっきりした増加傾向があります。平成14年に総会が行われた1970社のうち、質問なしが58.4%ですが、質問が多い項目は、経営政策・営業政策が25.9%で1位、2位は、配当政策・株主還元、3位が財務状況、4位が株価動向、5位が役員退職慰労金となっています。具体的な中身については、業績・株価低下に伴う不満などを背景とする攻撃的なものも相当数あるようです。一般株主の質問については、前日までに出席した他社の総会との比較に基づく質問が増加したとか、質問の内容が多様化しているなどの報告があります。株主が会社に対する質問事項をwebサイトに掲載している事例もあり、インターネットの普及によって、情報収集が容易になったことも質問の増加に拍車をかけていると思われます。なお、平成14年では、秩序を乱すような事態は生じなかった会社が97.9%で、約98%の会社では平穏に総会が開催されています。退場を命じたという会社は8社0.4%で、回答した1970社のうち、議案に対して質問があった468社のうち、動向をマークする株主の発言があった会社の合計は110社とされています。総会屋の動きは、ほぼ鎮静化しているといってよいでしょう。
6 ビジュアル化IR(インベスターリレイション化)
株主総会において、説明のツールとしてプロジェクターやビデオを用いているかどうか調査した結果では、そのような方法は採用していないと回答した会社は全体の67%で多数派ですが、前年に比べると6%減少しており、ビジュアルを使った総会は今後も増えると思われます。株主総会をIRの一環と考えて実践しているかという点については、そのように考えているが実践していないという企業が全体の60.6%で最も多く、ついでIRの一環と考えて実践している企業が全体の21.1%415社に上っており、株主総会のIR化の傾向が認められます。総会後に懇談会を開催している企業も231社全体の11.7%に上っており、企業が開かれた総会にするために努力している姿勢が伺われます。
1.(3)3月総会の概況
一時間以上総会は、平成13年を上回って増加し、発言者数、発言者有会社数いずれも増加傾向を維持しています。
1.(4)5月総会の概況
平成15年の状況については、会社法部の部員が承知した範囲での数字です。承知している78社について1時間以上総会は28社で、平成14年の129社のうち1時間以上が29社と比較すると長時間化の傾向は依然維持されていると思われます。発言者数、発言者有会社についても分母となるのが78社であるということを考えると、引き続き増加傾向にあるといってよいと思います。
2.6月総会の展望と対策
(1)6月総会の展望
1 一般株主の発言の激増
本年も引き続き前年程度か前年を上回り、総会の長期化、発言数の増加が予想されます。
2 外国人と機関投資家については、前述のとおり、株価が低迷した会社の株であっても多量の株式を早期に売却することなく、むしろ平常の経営を監視し、厳しい態度で議決権を行使して業績を向上させて投資収益を得る方向にシフトしていますので、そのような観点からの議決権行使なり、提案なりが増加することが予想されます。
(2)総会運営のあり方
1 総会屋対策的運営からの脱却
ビジュアル化、IR化などの傾向からもうかがえる通り、全体的に開かれた総会を目指しているので、旧来の総会屋対策的な総会を目指した運用を行うと株主から反発を受けることが予想されます。従業員株主の総会運営に対する協力についても、従業員株主が前方の列を占拠したり、議事進行についての拍手や「異議なし」などの言動について一般株主から指摘を受けている事例もあります。最高裁の四国電力事件判決にいうように、従業員株主と一般株主とは合理的な理由が無い限り、同一の取り扱いをするように節度ある運営が求められます。
2 総会の本来的な意義と説明義務の法的範囲
IRということが言われ、説明責任ということが言われるわけですが、いうまでもなく弁護士としては、あくまでも総会の本来的な意義と説明義務の法的範囲の部分はきちっと把握して、総会の本来的な意義が満たされるように、また、説明義務については総会決議の取消原因となるような事態にならないようにという視点は常に維持すべきことになります。
3 IRとの調整
説明義務に関するいわゆるグレーゾーンにもあたらないような質問については、当該会社のIR政策などから回答するかどうかを検討することになりますが、長時間に及ぶと質問の無い他の株主に負担であり、かつ決議までに退席される株主が増えることも懸念されるので、これらについても配慮することになるでしょう。
【参考文献】:
資料版商事法務NO226他
河村貢他・平成15年版株主総会想定問答集26頁(別冊商事法務259)
商事法務NO1647・株主総会白書