EU理事会は、2019年4月15日、EU著作権指令改正案を承認し同指令は6月に発効した。
改正案は、今日のデジタル環境に合うように、著作権で保護されたコンテンツにアクセスし、欧州連合全体でオンラインで共有するための新しい可能性を開きつつ、著者とアーティストを適切に保護するために、著作権に関する法的枠組みを修正することを目的としている。
EU加盟国は、24か月以内にこの新しい著作権指令を国内法化することになるため、同指令の適用がある企業はこれに沿った対応を迫られることになる。
注目されたのは、指令の17条(以下のURLの97頁から98頁)で、
https://data.consilium.europa.eu/doc/document/PE-51-2019-INIT/en/pdf
YouTubeやFacebookなどのデジタルプラットフォーマーは、プラットフォームに掲載される著作物について権利者からの許諾を得る義務がある
( An online content-sharing service provider shall therefore pbtain an authorisation from the rightholders,,,)
とした点である。
このルールには、引用、批判、評価、風刺、パロディー、などを目的とする場合や、Wikipediaなどの例外があるが、従来からの考え方=著作権を侵害したのは投稿者であるユーザーであり、プラットフォーマーには直接の責任がないという考え方を転換するものとなった。
これまでの考え方は、書店が著作権侵害の書籍を書棚に陳列して販売していても、書店がそれが著作権侵害の違法な商材であるということを承知していなかったのであれば、書店が権利侵害行為を行ったと評価することはできないというものであった。
書店が、毎日納品されてくる本の内容を精査し、著作権侵害の有無、つまり同じ創作的な表現が過去にあったか否かの調査をすることはできないからだ。
ネット上のプラットフォームは、書店とは比較にならない情報量が投稿されるためプラットフォーマーが権利侵害コンテンツの掲載を排除したり、権利者から許諾を得ることは実際には難しい。
書店やプラットフォームは、場所を貸しているだけであり、これらの者に責任を取らせるようになると表現を委縮させる可能性もある。そこでこれらの者は一切責任を負わないという立場も成り立ちうる。
しかし、権利侵害を放置しておくのは、権利侵害されている人の権利を軽んじることになり、法秩序全体から見て座りが悪い。
このため、裁判所は、法律は不可能を強いないが、他方で権利侵害行為が管理できる範疇にあることを知ったときは放置(不作為)してはいけないという考えをとってきた。
2チャンネルをはじめとする各種の掲示板で名誉棄損的な投稿が社会問題となると、このような裁判所の考え方を背景に、いわゆるプロバイダ責任制限法が制定された。
同法は、プロバイダと権利者との利益の調整として、プロバイダは、①権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能である場合であって、②情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたか、知ることができたと認めるに足りる相当の理由がある場合に責任を負い、そうでない場合は免責されるものとした。
同法によれば、著作権侵害のみならず、プライバシーや名誉棄損的な表現であっても要件を満たさなければ責任を免れる。
今回のEU著作権指令改正案によれば、プラットフォーマー(An online content-sharing service provider)は、プロバイダ責任制限法が免責を認める範疇に関しても責任を負うことになる。
EUは、これによって著作権者は著作物の使用に対する対価を得やすくなり、著作者やアーティストの権利が保護されるとしている。プラットフォーマーの経済的な基盤は著作権侵害コンテンツを含む膨大な投稿に支えられているので、プラットフォーマーに著作者の犠牲のもとに商売を続けさせるべきではないという価値判断であろう。
もっといえば、時に革命や暴動の原動力ともなりうるSNS(第5の権力/エリック・シュミット・Googleのファウンダー)が持つ驚くべきパワーに見合う責任を持たせる必要があるという哲学や、プラットフォーマーは主に米国企業であるという感情的な要素も背景にあるのかもしれない。
我が国のルールも、将来的にはEU的なものになっていく可能性がある。日本ドメスティックの企業もこのような考え方の流れを知っておくほうがよい。
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律
いわゆる"プロバイダ責任制限法"
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=413AC0000000137
(損害賠償責任の制限)
第3条 特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたときは、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下この項において「関係役務提供者」という。)は、これによって生じた損害については、権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって、次の各号のいずれかに該当するときでなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該関係役務提供者が当該権利を侵害した情報の発信者である場合は、この限りでない。
一 当該関係役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき。
二 当該関係役務提供者が、当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって、当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき。