憲法9条に思うこと

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安部内閣は、平成26年7月1日、「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」を閣議決定した。

http://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/pdf/anpohosei.pdf

総理は、同日の記者会見で、「海外で突然紛争が発生し、そこから逃げようとする日本人を同盟国であり、能力を有する米国が救助を輸送しているとき、日本近海において攻撃を受けるかもしれない。我が国自身への攻撃ではありません。しかし、それでも日本人の命を守るため、自衛隊が米国の船を守る。それをできるようにするのが今回の閣議決定です。」と説明した。

http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2014/0701kaiken.html

従来政府は、自衛権の行使は憲法9条に違反するものではなく、以下の3要件を満たすものであれば、我が国は個別自衛権を行使することができるとしていた。

  1. 我が国に対する急迫不正の侵害がある。
  2. 排除のために他の適当な手段がない。
  3. 必要最小限度の実力行使にとどまる。

ちなみに、最高裁も、「わが国が主権国として持つ固有の自衛権は何ら否定されたものではなく、わが憲法の平和主義は決して無防備、無抵抗を定めたものではない。」として同様の考え方に立っていた砂川事件判決(

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319122921884541.pdf

としている。

今回の閣議決定は、
「我が国」→「我が国」+「同盟国」に対する武力行使
に広げるものである。
「自衛」だけでなく「他衛」も含まれると解釈を広げたので、集団的自衛権の行使に途を開くものだとして、議論を呼んでいる。

閣議決定を読み、総理会見を見る限り、想定しているケースは限定されているようだが、許容範囲がなし崩しに広がるのではないか、想定しているケースであってもそこから事態が深刻化していくのではないかという懸念(他衛から始まって自衛まで強いられていく)も尤もだと思う。

僕が法律家のハシクレとして思うのは、我が国の状況と憲法前文及び憲法9条があまりにも乖離してしまっているということだ。

日本国憲法が戦争放棄と戦力不保持を規定したのは、そうしなければ天皇制を維持できなかったからであり(天皇制を残しても軍隊ないから戦争できない、だから天皇制を残してほしい)、憲法には軍隊に関する規定が全くない(文民統制という軍隊を持つ国なら当然の憲法上のルールすら書いてない)、憲法前文は国連による安全保障を想定している(国際紛争はそこで実効的に解決されるはずという想定となっている)、等から、自衛隊は憲法違反だというのが憲法学者の通説的な見解だ(芦辺信喜・憲法)。

最高裁は、上記のとおり、自衛権はあるという見解なので、「国際紛争を解決する手段として」ではなく、自衛権行使の目的を達するためのための自衛隊はあってもよいということになる。
しかし、自衛のための戦力が認められるならば、結局戦力一般を認めるのと同じであり「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。」という9条2項が無意味になるし、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。」という文言とかみ合わないと批判される。

終戦によって、強力な日本軍は完全に解体されたが、日本は、その後の米国からの要請によって防衛力増強の道を歩んできた。
そして、それに合わせて、憲法は変えずに、現状を変え、憲法との関係を言い繕ってきた。

現在、自衛隊が違憲だと考えている人はかなり少ないと思う。
議論をする出発点になる憲法9条と現状が根本のところでかなり乖離しているそのうえに議論を積み上げていくのは良くない。
枝葉の、或いは姑息なやりとりは止めて、根本から我が国の平和主義について、整理整頓したほうがよいと思う。

閣議決定のケースには触れずに(そもそも読んでもいないのかもしれないのかもしれないが、)、戦争は是か非か、或いは集団的自衛権は是か非かを論じる論調も結構多い。

曰く、
「家族や友達がチンピラに絡まれていて、お巡りさんもすぐ来てくれないとき、暴力反対と言って殴られるの見てるんですか?」
とか、
「自衛隊が他国の国民を一旦傷つけたら、日本はテロのターゲットになる。自衛隊はテロは防げません。」
とか、etc、、、
僕も、日本国民は、WCやオリンピックを見ても、ナショナリストの集まりだと思うので、例えば尖閣がらみで、自衛隊員が戦死して、マスコミがその家族や友人が悲嘆する映像流したりすれば、強烈な流れができかねないとは思う。しかし、無抵抗主義が良いとも思えない

「憲法9条について国民的議論が必要です。」と誰もが言っているが、このような議論はどんどんするべきだと思う。
自衛隊はどうあるべきで、どのような役割を担うのかを正面から議論したほうがいい。

そして、それを争点にして選挙をしてほしい。

参考: 日本国憲法

前文(抜粋)  日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。

第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

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TAGS:個別的自衛権 集団的自衛権  平成26年7月1日 閣議決定 戦争

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古田利雄>
古田利雄

主にベンチャー企業支援を中心に活動しています。上場ベンチャー企業、トランザクション、NGC、Canbas等の役員もしています。

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