民法改正のポイント 「約款」について
ーー「約款」に関するルールが民法典に加わる予定です。--
現在民法の改正作業が進行しています。中間試案では、これまで民法典に規定がなかった約款について定めようとしています。
私達は様々な取引ににおいてて約款を使用しています。
火災保険や生命保険に加入したり、電車やバスに乗ったりするためには、保険約款や運送会社の運送約款が適用されます。
しかしこれらの契約で、利用者は、通例「約款」を読んでいません。
例えば、JRでは、300にも及ぶ条文を持つ運送約款を定めていますが、JRには乗っていても、JRの運送約款を読んだことがある人はほとんどいないでしょう。
民法改正の中間試案では、約款について次のようなルールにしようとしています。
まず、約款を使用する者が契約を結ぶまでに合理的な行動とれば約款の内容とすることができる機会が確保されていれば、約款は契約の内容となります。
つまり、約款を知る機会が保障されていれば、約款の内容を読んだり、理解したりしていなくても約款が契約の内容となり、約款のルールにしたがった権利義務関係になります。
旧い判例(注1)は、樹林の火災によって家屋が燃えてしまったというケースで、「樹林の火災」による場合は、免責である(保険金は払われない)と約款に記載されていれば、特に契約者が約款に依らないという意思を示していない以上は、約款どおりに免責されると判断しています。
次に、約款に記載された条項であっても、相手方が約款に含まれていることを合理的に予測することができないものは契約の内容とはならないとされています。
約款は相手方が読んでいなくても適用されてしまうので、相手方が不意打ちされることを防ごうという趣旨です。
3番目に約款の変更について一定の要件を定めています。
最後に契約の内容となった契約条項は、その条項が存在しない場合に比べて、相手方の権利を制限したり、義務を加重することによって、相手方に過大な不利益を与える場合には無効となるとされています。
約款のルール作りでは、企業が多数の相手方と画一的な内容を定めて取引をするニーズと、相手方の権利をいかに保護するかということのバランスが求められます。
法制審議会では以上のようなルールにすることがそのバランスであると考えているようです。
ただ、最後の項目にあるとおり、相手方に過大な不利益を与えるものでなければ、当事者間の権利義務関係は約款がデザインした内容になるので、企業法務の現場としては、「相手方に過大な不利益を与える」ことにならない範囲で、企業活動が合理的に運営できる内容として、約款を設計することになります。
「相手方に過大な不利益を与える」か否かの分水嶺は、現状では推測するしかありませんが、今後の判例の集積によって、明確になっていくでしょう。
注1 大判大正4年12月24日民録21-2182
参照: 民法(債権関係)の改正に関する中間試案
http://www.moj.go.jp/content/000108853.pdf