昨日(2月14日)、東京弁護士会の会社法部で「濫用的会社分割への対処方法」をテーマとして定例会が行われた。
面白かったので紹介したい。
濫用的会社分割が流行ってしまった原因は、商法改正(平成17年)に端を発する。
そもそも旧商法では、会社分割は、分割会社・新設会社に債務の履行の見込みがあることが要件とされていた。
しかし、会社法では会社分割によって、事業資産の一部が新設会社に切り出されても、その新設会社の時価総額を表象する株式を分割会社が保有するのであるから、分割会社のBSは実質的に変わらないと考えることにして、分割会社の債権者に対する債権者保護手続は不要であるという制度にした。
そこで、事業再生のやり方として、債務超過になった会社のうち、優良事業部分だけを会社分割によって切り出す。そうすると、既存の会社と新設会社は100%親子関係となる。子会社は増資を行うか、親会社は新たな子会社の経営陣に子会社の株式を売却するなどして、親会社と切り離される。この子会社は営業に必要な取引上の債務のみを承継し、金融債務などは承継しない(そのような分割計画としておく。)
親会社だった会社は法的整理を行う。これによって、優良事業部分は債務負担のない事業体として再スタートを切る。
というプランが考え出され、事業再生において、頻繁に利用されるようになった。
これでは債権者はたまったものではないので、次のような対抗策が撮られた。
・ 商号続用している場合、会社法22条1項による請求
・ 法人格否認
・ 詐害行為取消権行使(民法424条)
・ 破産管財人による否認権行使
・ 取締役に対する会社法上の責任追及
このうち、詐害行為取消権の行使について、会社分割という組織法上の行為に適用できるのか? 取消の効果は?など論点が多かった。
結露からいうと、最高裁は、後掲の表現で詐害行為取消を認めた。資産の代わりに子会社の株式を取得しても、閉鎖会社の流動性のない株式は価値が目減りするし、分割会社の債権者が満足できなくなるようであれば詐害行為取消を認めないという理由はないという考えだ。同判決には、「詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができると解される」と書いてあるが、「その債権の保全に必要な限度で新設分割設立株式会社への権利の承継の効力を否定することができる。」と続いており、結局、会社分割による会社の設立そのものは取り消されるわけでなく、債権保全に必要な範囲で取り消されるとした。
現在進行中の会社法改正では、「詐害的な会社分割等における債権者の保護 」として、以下のような規定を設けることが検討されている。
分割会社が承継会社等に承継されない債務の債権者(以下「残存債権者」という。)を害することを知って会社分割をした場合には,残存債権者は,承継会社等に対して,承継した財産の価額を限度として,当該債務の履行を請求することができるものとする。ただし,吸収分割の場合であって,吸収分割承継会社が吸収分割の効力が生じた時において残存債権者を害すべき事実を知らなかったときは,この限りでないものとする。http://www.moj.go.jp/content/000100819.pdf
これに対しては、民法の詐害行為取消権の行使と要件が異ならないのであれば、重ねて会社法にこのような規定を置くべきではないとか、濫用的会社分割を抑制するためには、会社法にかような規定があったほうがよいなど様々な意見がだされた。
民法の債権編の改正作業も進行中であるが、一つ驚いたことがあった(不勉強なので)。
というのは、同中間試案では、相殺による事実上の優先弁済の当否について、以下のように書かれている。
「詐害行為取消権は,本来的には,取消債権者が,債務者の責任財産を保全して強制執行の準備をするための制度であるといわれているところ,判例は,取消債権者が,受益者又は転得者に対して,返還すべき金銭を直接自己に引き渡すよう請求することを認めており,これによれば,取消債権者は,受領した金銭の債務者への返還債務と被保全債権とを相殺することにより,受益者その他の債権者に事実上優先して,自己の債権回収を図ることができることになる。このような形で詐害行為取消権が機能していることに対しては,民法第425条の「すべての債権者の利益のため」との文言に反し,本来の制度趣旨を逸脱するものであるとの指摘がされているほか,債権回収に先に着手した受益者
が遅れて着手した取消債権者に劣後するという結論には合理性がないといった指摘もされている。
他方で,債権回収機能をまったく否定してしまうと,取消債権者にとって訴訟により詐害行為取消権を行使するインセンティブが失われ,その結果,詐害的な行為に対する歯止めが失われてしまうとの指摘もある。 以上のような問題状況を踏まえ,取消債権者が事実上の優先弁済を得ることの当否について,どのように考えるか。」
http://www.moj.go.jp/content/000033452.pdf
実務家としては、事実上の優先弁済が見込めるから、詐害行為取消をするのであって、相殺による回収が認められなくなるのであれば、準自己破産でも申し立てたほうがましである。理論的にすっきりするように法改正をして、その制度を誰も使わなくなるのはどーいうものか。
パブコメ段階になったら、猛烈に反発したいと思う。 みなさんも是非ご賛同を!
参考:
株式会社を設立する新設分割と詐害行為取消権
平成24年10月12日最高裁判所判決
事案:会社分割によって、会社の優良資産である不動産を新設会社に移転したので、分割会社の債権者が、会社分割は詐害行為であり、取り消されるべきものだから、会社分割による所有権移転登記は抹消されるべきであると請求したもの
判旨:株式会社を設立する新設分割がされた場合において,新設分割設立株式会社にその債権に係る債務が承継されず,新設分割について異議を述べることもできない新設分割株式会社の債権者は,民法424条の規定により,詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができると解される。この場合においては,その債権の保全に必要な限度で新設分割設立株式会社への権利の承継の効力を否定することができるというべきである。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121012115428.pdf