数日前のフジサンケイビジネスアイの1面に、会社法改正要綱案がらみで、
・ 要綱案は、経済界の強い反対によって社外取締役の導入強制が見送られた。→日本企業のガバナンスの評価は世界でも30番台後半で中国にも劣るのに、改善されなかった。→今後も、ガバナンス後進国のマーケットには外人の金が入ってこない。→日本の株価は今後も低迷するだろう。 というコメントが載っていた。
証券取引所は、今後、上場会社には独立取締役(末尾をご覧ください、)の導入を求めるからこのような論調には違和感があるが、それはさておいても、自称会社法の専門家で実際に社外取締役をしている立場としては、社外取締役を義務付けるか否か、社外取締役がいればエライのか? だけを議論するのは違和感がある。
社外取締役に期待されているのは、会社に問題があったときにタイムリーにそれを質して正しい方向に持っていく、社長がおかしなことをしていたらクビにするといったことだと思う。出来の良い社外取締役でも、実務をガッツリやっている常勤役員たちに経営指導するというのは難しいから、制度としてそんなことを期待すべきではないし、適任者もほとんどいない。
そうするとポイントとして外せない点が2つあると思う。
1つは、社外取締役の生活がその会社に依存していないこと。会社が潰れたら生活に困るというような人では、会社に重要なダメージが生じるような事を問題にしたり、開示したりすることに躊躇してしまう。だから、社外取締役がもらう報酬は、社外取締役の全体の所得の20%までというルールにしたらいい。そうすれば、社外取締役は、有価証券報告書に虚偽記載、粉飾、違法行為や労働問題を認識したら、あまり生活を依存していない会社を守って、株主代表訴訟や金商法の課徴金などのリスクを引き受けようなどとは思わないはずだ。
2つは、社外取締役が適切に行動しうる前提となるある程度分析された情報を受け取れるようにすることだ。取締役の過半数が社外取締役でも、情報から隔離されていれば何もできない。これは結構難しいことで、内部統制の規定を作ればよいというものではない(要綱案でも、内部統制システムについて、監査を支える体制や監査役による使用人からの情報収集に関する体制にかかる規定の充実・具体化と、運用状況の概要を事業報告の内容に追加するものとされた)。
リスクアプローチで、当該会社毎に重要なリスクと発生頻度のアセスメントをして、そのリスクが顕在化しそうなときに機械的に社外取締役にアラートが届くといいと思うが、果たしてそんなシステムを作ることができるか。
義務付けるかどうかは別として、社外取締役を入れるのであれば、これらの前提を踏まえて欲しい。
関係のある会社同士で、たすき掛け的に社外取締役を融通しあうなどといった姑息なことを考える会社は、そんなことしないで上場廃止したほうがいい。
社外取締役とは:
その会社の従業員や役員として仕事をしたことがない人。従業員だったり業務執行をしていた人は過去に社長の指揮命令下にあったので、社長にものが言い難いはず という発想に基づく区別。 社外でも、大株主だったり、緊密な取引があったりすると会社の存続に対して利害関係がある。社外取締役のうち、そのような属性の人を間引いた残りを、「独立取締役」という。要綱案では、社外取締役の要件を厳格化しており、「親会社」「兄弟会社」の役員・使用人、役員や重要な使用人の配偶者や親族も「社外」から外れるとした。