給与課税されないストック・オプションの設計

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給与課税されないストック・オプションの設計

1 ストック・オプションの課税関係
職務執行の対価としての新株予約権は、有利発行でなくとも原則として給与所得として課税されます(所得税法施行令84条4号・所基通23~35共-6)。
優遇措置としての税制適格ストック・オプション制度がありますが、親会社,未上場会社の発行済み株式の3分の1超を保有する株主(大口株主),特許を提供しているが役員となっていないファウンダー,出資だけでなく様々な支援を行うエンジェル,および顧問や請負の形態でベンチャー企業を支援する外部の専門家は,その付与対象者となることができません。また、税制適格ストック・オプションは権利行使期間、権利行使後の株式の保管、年間の権利行使価額などが制限されています(租税特別措置法29条の2第1項・同施行令19条の3第3項②)。
他方で、ストック・オプションが,ブラックショールズモデルなどによって公正に評価された付与価格(非有利発行)全部に相当する現金を対価として付与される場合は,役務の提供の対価として付与されるものではありませんから、前記所得税基本通達の適用はありません。
したがって、ストック・オプションの権利行使時には課税されず,権利行使によって取得した株式を売却したときに売却価格と権利行使価格の差額に対して譲渡所得課税がなされることになります。

2 ストック・オプションの付与日の公正価値の算定手法
「公正な評価単価」とは、「一義的には、市場において形成されている取引価格であり(ストック・オプション等に関する会計基準・第2 項(12))、本来、ストック・オプションの公正な評価単価の算定についても、市場価格が観察できる限り、これによるべきものと考えられる。しかし、ストック・オプションに関しては、通常、市場価格が観察できないため、株式オプションの合理的な価格算定のために広く受け入れられている、株式オプション価格算定モデル等の算定技法を利用して公正な評価単価を見積る。」,「株式オプション価格算定モデルとは,ストック・オプションの市場取引において,一定の能力を有する独立第三者間で自発的に形成されると考えられる合理的な価格を見積もるためのモデルであり,市場関係者の間で広く受け入れられているものをいい,例えば,ブラック・ショールズ式や二項モデル等が考えられる(同第48項後段)。」とされています。

ブラック・ショールズ式や二項モデルを用いて新株予約権の公正な評価単価を算定する場合,以下の基礎数値を用いるものとされています(ストック・オプション等に関する会計基準・第6項(2),同適用指針5以下)。

① 算定時点(付与日又は条件変更日)における株価(原資産価格・S)
② オプションの権利行使価格(K)
③ 算定時点から権利行使されると見込まれる平均的な期間(t)
④ 見積株価変動率(ボラティリティ・σシグマ)
⑤ 無リスクの利子率(割引率r)
⑥ ③の期間における見積配当額(D)

各基礎数値がプラスに変動した場合によるオプション価格への影響は,次のようになります。
基礎数値項目 オプション価格
① 原資産価格(S) 上昇
② オプションの権利行使価格(K) 下落
③ 権利行使期間(t) 上昇
④ 見積株価変動率(σ) 上昇
⑤ 無リスクの利子率(割引率r) 上昇
⑦  ③の期間における見積配当額(D) 下落

上記項目のうち、会社の裁量によって決められるのは、権利行使価格と権利行使期間の2つです。よって、権利行使価格を現在の株価よりも高く設定し,かつ,権利行使期間を短縮することによって,オプション価格をより低廉な金額とすることができます。
さらに,権利失効に関する条件を設計することによって,権利行使が予想されるオプション数を引き下げることによっても,ストック・オプションの公正な価額を引き下げることができます。たとえば,発行会社の株式が特定の金額を下回る価格で発行され,或いは取引所で売買されたときは,ストック・オプションが消滅すると定めることが考えられます。

より詳しい説明を知りたい方は、ベンチャー企業の法務・財務戦略の当職が執筆した原稿をご参照ください。
https://www.clairlaw.jp/book-etc.html#venturelaw

以上

著者
古田利雄>
古田利雄

主にベンチャー企業支援を中心に活動しています。上場ベンチャー企業、トランザクション、NGC、Canbas等の役員もしています。

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