新型コロナウイルスの影響で相次ぐ結婚式の自粛。キャンセル料や延期料金は支払わなくてはならないのか。

契約新型コロナウイルス結婚式

新型コロナウイルスの影響が日に日に深刻化するなかで、結婚式の自粛を余儀なくされる新郎新婦の方々が急増しています。
 このような状況に立たされた新郎新婦の方々にとって、大きな悩みの種の一つとなるのが、キャンセル料金又は延期料金(以下「キャンセル等料金」といいます。)です。式場から支払いを求められた場合、言われるがまま支払わなくてはならないのでしょうか。

1 諦めるのはまだ早い!規約をよく読めば交渉のチャンスはある!


Q.式場から「規約に基づくキャンセル等料金をお支払いください」と言われてしまいました。規約に書いてあるし、黙って支払うしかないのでしょうか?
A.そんなことありません。式場と話し合えば、免除・減額の可能性があります。


キャンセル等料金の支払いに関しては、本予約の際に式場と交わす契約書(挙式・披露宴規約(約款))に規定がある場合がほとんどです。残念ですが、キャンセル等料金は原則的に当該規定に基づき支払わなくてはなりません。しかし諦めないでください。このようなキャンセル等料金の支払いには、規定に定められた条件を満たす必要があります。つまり、規定に定められた条件を満たさない場合は例外的にキャンセル等料金を支払う必要がないのです。
まず初めに、キャンセル等料金がどのような条件で発生するのかを確認しましょう。
 ここで注目すべきは、取消料を定めた規定や「不可抗力」という語句が書かれた規定です。
 例えば、某有名老舗ホテルの「挙式・披露宴規約」には次のように規定されています。


〇条(取消料)
 すでにお申し込みいただいたご婚礼及びそれに付帯するする事項を、お客様のご都合により取消される場合は、所定の取消料をお支払いいただきます。(以下省略)
〇条(不可抗力)
 自然災害・その他の不可抗力により、ご契約時の会場(付帯設備を含む)が使用に耐えられない場合、別会場をご用意させていただく場合がございます。その際、部屋代に差額が生じた場合はご返金させていただきます。また、当ホテルそのものが使用できない場合には、既支払額の返金をもって補償させていただくものとし、それ以上の責任は負いかねますので予めご了承ください。


(1)上記規定をみると、取消料が発生する条件は「お客様のご都合により取消される場合」です。すなわち、お客様の都合でないキャンセルであれば、キャンセル料は発生しません
 では新型コロナウイルスの影響による自粛キャンセルは「お客様の都合」にあたるのでしょうか。
 今までの国や地方公共団体の自粛要請は、法律に基づかない要請であくまで「協力してくださいね。」というレベルです。ですから、その要請に協力するかどうかはあくまで個人の判断に委ねられます。そうすると、自粛キャンセルはあくまで自己判断、すなわち「お客様の都合」という解釈が成り立ちます。実際多くの式場がそのような解釈を基にキャンセル等料金を請求しています。
 しかし、新郎新婦の方々にとっては一生に一度の晴れ舞台ですし、社会情勢を加味した苦渋の決断であることは明白であり、単純に「お客様の都合」とされても納得がいきません。
 繰り返しになりますが、今回のキャンセル等を「お客様の都合」とするのは、あくまで解釈に過ぎず、法律で決まっているわけではありません
 したがって、式場から支払い請求をされた場合であっても、今回のキャンセル等は自己都合ではないという主張をし、式場と話し合いをする余地があります。式場の中には新郎新婦の方々の苦渋の決断を考慮し、キャンセル等料金を免除したり減額したりする所もありますから、最初からあきらめることありません。(話し合いの際に有力な材料となる事情については後記4緊急事態宣言で紹介)


(2)次に、不可抗力の規定をみると、「自然災害・その他の不可抗力により」「当ホテルそのものが使用できない場合には」返金対応、すなわち既に支払った結婚式費用が返金されます。また、係る規定に該当してやむを得ずキャンセルとなった場合であれば、当然「お客様の都合」に当たらないわけですからキャンセル料を支払う必要はありません。
 では、新型コロナウイルスが「自然災害その他の不可抗力」に該当するのでしょうか。
 不可抗力とは、一般的に地震や津波といった天災や、テロや火災といった人災等、元来人の力による支配・統制を観念することができない自然現象や社会現象を言いますが、法律上明確な定義がありません。また、新型コロナウイルスは、人類が未経験の事象です。
 そうすると、新型コロナウイルスが不可抗力の現象に該当するか否かを決定づける明確な根拠はないことになりますから、新型コロナウイルスが不可抗力に該当するかは話し合いで決するほかありません
 話し合いにおいて、"新型コロナウイルスが不可抗力に該当する"という立場をとる場合、有力になり得る材料が、他の不可抗力の例示です。先ほど言ったように具体的定義がないため、どのような現象が不可抗力にあたるのか、規定で具体的に例示されていることがあります。
 例えば、規定上の不可抗力の具体例に「伝染病」や「政治的事象」(自粛要請を政治的判断ととらえる)といったものが例示されていれば、新型コロナウイルスも不可抗力に該当すると主張することも可能だと思います。(仮に例示がなくても、一般的な不可抗力の具体例に「伝染病」や「政治的事象」が例示されることが多いことを理由に規定の不可抗力もこれらを含んでいるはずだと主張する余地もあります。)
 したがって、新型コロナウイルスは不可抗力に該当するとして、式場と話し合いをする余地もあるでしょう。

2 ダメ元でもいいから保険会社に問い合わせを!ブライダル保険を確認


Q.ブライダル保険の利用はできないと聞きました。実際どうなのでしょう。
A.利用できないと決まっているわけではありません。とにかく保険会社に問い合わせて見解を聞きましょう。


 もっとも、式場も新型コロナウイルスの影響を受け苦しい状況であることは変わりありませんので、新郎新婦の方々の苦慮を理解しつつも話し合いに応じてくれないことも十分想定されます。その場合キャンセル料等が発生してしまうことになりますが、どうしたらいいのでしょうか。
 まず考えられるのは、ブライダル保険の利用です。ブライダル保険が利用できる条件は保険会社によって様々ですが、共通していることは、どの保険も新型コロナウイルスを想定していないということです。現状においては、新郎新婦本人が新型コロナウイルスに感染した場合はまだしも、新型コロナウイルスの影響による結婚式の自粛キャンセルの場合にまで保険が利用できる可能性は低いでしょう。
 しかしながら、今後保険会社の対応が変わる可能性もありますから、ブライダル保険に加入している場合は、今一度保険内容を確認し、保険会社に問い合わせることが大切です。

3 キャンセル等料金の金額は本当に妥当?減額交渉のチャンスはある!


Q.キャンセル等料金の見積書が提示されました。あまりにも高額だと思うのですが金額は妥当なのでしょうか。
A.見積書の明細を出してもらうことで、減額交渉ができる可能性があります。


 ブライダル保険も利用できず、いよいよキャンセル等料金の支払いを余儀なくなされた場合であっても、キャンセル等料金の減額を試みることは可能です。
 一般的にこのようなキャンセル等料は損害賠償の意味合いをもつのですが、キャンセルによる損害賠償額については、消費者契約法第9条1項で規制があります。


消費者契約法第9条
次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
二(省略)


 簡単に言えば、契約であらかじめ定められたキャンセル等料金が、式場に生じる平均的な損害を超える金額であれば、超えた部分については無効であるから、超えた部分の料金に関しては支払う必要がない、つまり減額が可能ということです。
 ここで、契約であらかじめ定められたキャンセル等料金は、各式場が平均的損害を考慮して算出した金額であることが多いため、キャンセル料金は妥当ですと言われるかもしれません。
 しかしながら、この算出は、あくまで通常のキャンセルの場合を想定して算出された平均的損害であり、今回のような新型コロナウイルス事情を想定したものではありません。そのため、今回に関しては算出された金額が妥当であるとは言い切れません。
 そうすると、定められた平均的損害額が実際の損害額を超える可能性も十分にあります。
 したがって、キャンセル等料金を請求された場合には、見積書の詳細を提出してもらい、キャンセル等料金の減額を相談してみるよいでしょう。

4 緊急事態宣言は話し合いをする上で有力な材料になりうる!


Q.緊急事態宣言が出されましたが、結婚式の自粛になにか影響はあるのでしょうか?
A.都道府県知事からの自粛要請があれば、結婚式を自粛してもキャンセル料等を払わなくて済む可能性があります。


 令和2年4月7日、政府から緊急事態宣言が公示されました。この緊急事態宣言は新型インフルエンザ等対策特別措置法第32条に基づく法的根拠を持った宣言です。(法名は新型インフルエンザ等となっていますが、この法律は新型コロナウイルスにも適用されるようになりました。)
 この緊急事態宣言により、都道府県知事(現段階では、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡)は、学校、社会福祉施設、興行場その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者に対し、当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができるようになります(同法45条2項)。そして、「その他の政令で定める多数の者が利用する施設」には次の施設が挙げられています(抜粋)。


・集会場又は公会堂
・ホテル又は旅館 (集会の用に供する部分に限る)


 確かに政令において明確に結婚式場という文言はありませんが、この規定の目的が、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避することであることからすれば、結婚式場は上記に掲げた施設に該当する解釈をすることは十分に可能であると思います。
 この解釈を前提とすると、結婚式の自粛は、都道府県知事が式場又は新郎新婦の方々に対して法律の根拠に基づいて要請することになりますから、この要請に従い結婚式をキャンセル等しても、「お客様の都合」とは言えなくなります。
 したがって、この場合、キャンセル料等の支払いは規定の条件を満たさないとして免除されるべきではないかと思います。

5 最後に


 様々な思い入れをもって準備をする一生に一度の大切な行事であるのにもかかわらず、自分たちの想いよりもご家族やご親族、列席者に配慮して苦渋の決断した方々が、さらに金銭的負担を強いられる現状は、にわかには受け入れがたいものがあります。
 今回の記事が、新郎新婦の皆様にとって少しでも参考になれば幸いです。

Category:契約 , 新型コロナウイルス , 結婚式

著者
高橋愛衣>
高橋愛衣

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