1 基本原則
パブリシティ権が認められる客体は「肖像等」であることは以前説明しました。そして繰り返しにはなりますが、「肖像等」とは、本人の人物識別情報をいいます。例えば、顔はもちろんのこと、サイン、署名、声、ペンネーム、芸名等を含むものです。では、「肖像等」の「等」とは、例として挙げたもの他に何があるのでしょうか。また、「肖像等」には含まれないものとの境は何なのでしょうか。これらについても明確に決まっているわけではありませんので、今回で具体的に検討していこうと思います。
なおここで、本判決は「肖像等」について「個人の人格の象徴である」とも述べています。そうすると、本検討の際重要な判断基準となるのは、検討の対象が「個人の人格の象徴」であるか否かであると考えます。
2 モノのパブリシティ権
顧客吸引力を持つのは何も芸能人といった「ヒト」ばかりではありません。アニメのキャラクターや、CMで話題のお父さん犬、パンダのシャンシャン、G1ホース・・・。このように「ヒト」以外にも顧客吸引力を有する「モノ」は多数存在します。しかし、結論を先に述べると、「モノ」にパブリシティ権は認められません。いわゆるギャロップレーサー事件の最高裁判決が物のパブリシティ権を否定したからです(最二小判平成16年2月13日民集58巻2号311頁)。[1]この点に関しては様々な学説がありますが、「モノ」は「個人の人格の象徴」とは言えないことからも「モノ」にパブリシティ権は認められないと理解していただければよいかと思います。
もっとも、先ほど挙げた「モノ」にパブリシティ権が認められないからといって、完全に自由に使用してよいものでしょうか。例えば、あるアイドル犬をプロデュースした会社(A社)が、そのアイドル犬のもつ顧客吸引力を使って商売をしたとします。A社において、「犬」を「アイドル犬」にするために相当な労力と費用を費やしたとすると、売り上げからそれらの経費分が引かれます。この時、別のB社が勝手にそのアイドル犬の肖像(アイドル犬がイベントなどに登場した際に写真を撮るなどしたもの)を使って商品を売りだした場合、A社は、B社に対し、そのアイドル犬の肖像を使うなと言いたくなるでしょう。これはいわゆるフリーライド[2]の問題でもあります。
もちろんこうしたフリーライドを規制するのは、著作権法や商標法等の各種知的財産法によってなされています。しかし、本事例のように、現行法上の知的財産法ではカバーしきれない事案もあるのです。確かに「モノ」のパブリシティ権は認められませんが、本判決は、パブリシティ権侵害以外の法律構成による主張が認められないとしたわけではありません。そうであるとすると、本事例のような、顧客吸引力がある「モノ」で、かつ現行法では規制できないフリーライドを規制することも認められるのではないでしょうか(私見)。もっとも、このようなフリーライドをすべて規制してしまうと経済活動を委縮させてしまいかねないので、規制の要件を明確にし、ある程度規制を限定的にする等の配慮は必要となってくると思います。
したがって、「モノ」にパブリシティ権が認められないからと言って直ちに泣き寝入りするということでもないわけです。
3 具体的客体の検討
(1)キャラクター化
例えば、身体的特徴がある有名人や特徴的なメイクや衣装をしている有名人が、漫画のテイストでキャラクター化されたとしましょう。この時、そのキャラクターが彼らをモデルにして作成されていることは誰の目にも明らかでしょう。さて、そのキャラクターを使って商品を売り出した場合、彼ら有名人のパブリシティ権を侵害することになるのでしょうか。つまり、かかるキャラクターが「肖像等」としてパブリシティ権の客体となるのでしょうか。
この問題について私は、キャラクターが肖像本人と識別される限り、「肖像等」にあたると考えます。簡単に言えば、彼ら有名人の「肖像等」が「写真」という形であれ「キャラクター」という形であれその手段はあまり関係ないということです。もっとも、キャラクターの中でも、彼ら有名人の肖像をモチーフにしたものに過ぎず、肖像本人と識別できるとまでは言えないようものまでパブリシティ権の客体としてしまうと、表現の自由・創造の自由に委縮効果をもたらしてしまう恐れがあるので、注意が必要かと思います。
なお、「肖像等」にあたるキャラクターの場合、肖像本人のパブリシティ権とキャラクター作成者の著作権との権利の対立が起こりうる可能性があります。
(2)ものまね
ものまねも上記キャラクターと同様に考えられます。例えば、ものまね芸人がある有名人をものまねをしたときに、そのものまねのクオリティが非常に高く、有名人本人と誤解されるような場合、そのものまねは肖像本人と識別されてるため、「肖像等」にあたり、本人のパブリシティ権を侵害することになると考えます。その一方で、ものまねのクオリティが低い又は脚色が強くものまね芸人個人の個性が強い場合、そのものまねは「本人○○のものまねをするものまね芸人」という肖像として認識されるため本人の「肖像等」にはあたらず、本人のパブリシティ権を侵害することにはならないと考えます。
(3)コスプレ
コスプレの場合は、上記2例とは異なり、コスプレの対象が人間ではなく、漫画やアニメのキャラクターといった「もの」であることです。前述の通り、「もの」はパブリシティ権の対象にならないという考えですから、コスプレの対象である漫画やアニメのキャラクターは「肖像等」にあたらず、パブリシティ権の客体にはなりません。他方で、現在では、コスプレイヤーという職業も誕生しています。また、コスプレイヤーの中には大きな顧客吸引力を有する有名コスプレイヤーもいます。そうすると、このような自然人である有名コスプレイヤーの肖像を無断で使用して商品を売った場合、「有名コスプレイヤー」の肖像は「肖像等」にあたり、パブリシティ権の客体になうるので、当該無断使用はパブリシティ権の侵害となる可能性があると考えます。
4 次回にむけて
今回はパブリシティ権の客体について具体的事例を挙げながら検討してきました。そして、今回でパブリシティ権の基本事項についての説明が一通り終わりました。
次回で最後となりますが、次回は本稿のまとめを書きたいと思います。