第0回 本稿の前に
1 はじめに
皆さんが何か商品を購入しようと思ったとき、複数ある同様の商品の中から何を基準に選ぶでしょうか。値段、質、見た目・・・様々な基準が個々それぞれにあるでしょう。しかし様々な基準の中でも、例えば「あの芸能人の写真がデザインされているカレンダーだから買ってみよう」とか、「あの芸能人がCMに出てるシャンプーだから買ってみよう」とか、「あの人がブログで勧めてる料理本だから買ってみよう」といった、商品そのものの性質によらない基準で選ぶ人も多いのではないでしょうか。少なくとも、こういった有名人・芸能人(以下「有名人等」という)の影響力は大きいように思います。人気の有名人があるお菓子を食べているのがひとたびTVに映れば、そのお菓子メーカーのホームページにアクセスが集中し、翌日には即完売といったような現象が度々みられることからもわかるでしょう。
さて、このように有名人等が商品の購買意欲に対して影響を及ぼす力、すなわち、商品の販売等を促進する力をここでは「顧客吸引力」ということにします。そして、このような顧客吸引力は、すでにご承知の通り非常に大きな経済的利益をもたらしうるものです。しかし、その一方で顧客吸引力は、その商業的価値があるがゆえにその価値・利益をめぐってしばしば争いの原因にもなります。
ここで登場するのが「パブリシティ権」です。パブリシティ権は、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利として、いわゆるピンクレディー事件[1]判決(次回以降で説明)により権利として確立されました。しかしながら、「パブリシティ権」という言葉を耳にしたことのある人はいても、パブリシティ権は誰に認められる権利で、権利により保護される対象は何なのか、また権利の侵害はいかなる基準で判断されるのかといった、具体的なことについてはよく知らない人がほとんどだと思います。
SNSの発展やメディア媒体の増大で、誰でも有名人等のような影響力を持つことが不可能ではなくなった昨今、パブリシティ権は何も有名人等に限った話ではなく、私のような一般人においても身近な権利になる可能性があります。そこで私は、今回、パブリシティ権について簡単に解説し、少しでも多くの方に知っていただけたらと思い執筆に至りました。
そのため、本稿では広く一般にむけて基本的事項を具体的に説明することに注力し、難しい議論については極力省略しています。また、本稿においては、多分に私見が述べられているため、あくまで参考資料としてご覧になっていただけると幸いです。
2 目次
第1回 パブリシティ権の法的性質
1.パブリシティ権の定義
2.パブリシティ権の法的性質
(1)人格権説
(2)肖像権との違い
3.具体的問題
(1)譲渡性
(2)相続性
第2回 パブリシティ権の侵害
1.侵害基準
2.「専ら」「商品等」「肖像等」の意義
3.侵害の範囲と表現の自由
第3回 パブリシティ権の主体
1.基本原則
2.例外の検討(芸能プロダクション、グループ、団体の主体性)
第4回 パブリシティ権の客体
1.基本原則
2.モノのパブリシティ権
3.具体的客体について検討(キャラクター、ものまね、コスプレ)
第5回 まとめと課題
【結論だけを知りたい方はこちら】
【本稿通しての参考文献】
[1] 平成19年2月、雑誌出版社が、女性デュオ「ピンク・レディー」の二人を被写体とする写真を同人らに無断で同社発行の週刊誌に掲載し、同人らが同社に対し、写真の無断掲載について損害賠償を請求した事件。