1 ウィーン売買条約とは
ウィーン売買条約の正式名称は,「国際物品売買契約に関する国連条約(United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods: CISG)」です。国境を越えて行われる物品の売買に関する国際条約です。契約や損害賠償の基本的な原則が定められています。
国際連合国際商取引法委員会に起草され、1980年採択、1988年1月に発効されました。条約発効以来、締約国が増えており、日本では2009年8月1日から発効しています。
2 適用範囲
当事者の所在する国がいずれも締約国である場合には、自動的にウィーン売買条約が適用されることとなります(同条約1条1項)。
また、当事者の所在する国の一方が非締約国であっても、国際私法に基づく準拠法の判断の結果、締約国の法を適用するとされた場合には、同条約が適用されることとなります(1条第2項)。
ウィーン売買条約に加盟している日本においては,除外しなければ,自動的に,必ずウィーン売買条約が準拠法になります。
3 ウィーン売買条約の適用の排除
国際取引の場において,ウィーン売買条約はみなし準拠法となっています。そのため,弁護士などから,その適用の排除を進められることも多いかと思います。
ただ,6条に「当事者は、この条約の適用を排除することができるものとし,...この条約のいかなる規定も、その適用を制限し、又はその効力を変更することができる」と規定されています。つまり,ウィーン売買条約は,全面適用,全面排除のほかに,一部はそのまま残し一部は改正するといった調整が自由にすることができるのです。
確かに,将来紛争となった時には,日本の法によって対処できるのであれば適切な解決を導きやすくなるといえ,あらかじめウィーン売買条約の適用を排除しておくことも一つの案であると思います。
しかし,ウィーン売買条約には,有利に使える条文も存在しています。
例えば,71条には不安の抗弁権が明記されています。この条文を適用したのであれば,双務契約において相手方の財産状態が著しく悪化するなどにより反対給付が得られるか不安を感じたときには,自身の履行をも拒むことができるのです。
一概に,ウィーン売買条約の適用を排除するとの判断をするのではなく,ウィーン売買条約を上手く利用するということも頭の片隅に入れておくとよいでしょう。
4 完璧な日本語訳の存在
さらに便利なことに,ウィーン売買条約は,必ず加盟している国々の1対1の翻訳があります。日本にも,すでに完璧な翻訳が存在しているのです。
準拠法が英語であろうとイタリア語であろうとドイツ語であろうと中国語であろうと,日本で適用している翻訳を見ればよいのです。