当事務所ニュースレターvol.170で紹介した改正会社法のポイント解説(後編)内の「C 親会社による子会社株式の譲渡規制の新設」および「D 支配株主の異動を伴う募集株式の発行等に関する規制の新設」につき、条文解説とあわせ、事業再生・倒産法関連への影響について解説します。
1 子会社株式等の譲渡に株主総会特別決議が必要(会社法467条1項2号の2)
株式会社による子会社株式(又は持分)の譲渡については、以下のイロのいずれにも該当するときは、株主総会の特別決議(309条2項11号)による承認が必要となります。
● 改正会社法467条1項2号の2(事業譲渡等の承認等)
- 株式会社は、次に掲げる行為をする場合には、当該行為がその効力を生ずる日(......「効力発生日」......)の前日までに、株主総会の決議によって、当該行為に係る契約の承認を受けなければならない。
(略)
二の二 その子会社の株式又は持分の全部又は一部の譲渡(次のいずれにも該当する場合における譲渡に限る。)
イ 当該譲渡により譲り渡す株式又は持分の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額(※)の五分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えるとき。
ロ 当該株式会社が、効力発生日において当該子会社の議決権の総数の過半数の議決権を有しないとき。
(略)
(※)会社法施行規則134条。基本的には最終貸借対照表の「資産の部」の額とイコールですが、貸借対照表の貸方(「負債の部」「純資産の部」)の各項目を加減して算定する規定ぶりとなっています。
● 趣旨
株式会社による子会社株式等の譲渡は、株主総会特別決議による承認を必要とする「事業譲渡」に該当せず、改正前は取締役会決議による承認で足りました。しかし、当該譲渡は、株式等保有を通じた子会社事業に対する直接支配を失う場合には、実質的に「事業譲渡」と同様の影響が当該株式会社に及びます。そこで、改正会社法では、子会社事業が当該株式会社の重要な事業と評価でき(イ)、その直接の支配を失うと評価できる(ロ)ような場合にも、事業譲渡と同様の手続を必要としました。
● 事業再生・倒産法関連
まず、私的整理手続において、子会社株式等の譲渡を用いたスキームの利用の手続的コストが増大するため、この点は留意する必要があります。
また、民事再生手続、会社更生手続及び特別清算手続においても、現行法の事業譲渡に関する規制と同様、改正により、手続開始後の子会社株式等の譲渡にも以下の手続が必要となるため、この点には留意する必要があります。
改正民事再生法 | 改正会社更生法 | 特別清算(改正会社法) | |
裁判所の許可 | 42条1項2号 | 46条2項 | 536条1項3号 |
債権者等の意見聴取 | 42条2項 | 46条3項1号、2号 | 896条1項 |
労働組合等の意見聴取 | 42条3項 | 46条3項3号 | 896条2項 |
2 公開会社における支配株主の異動を伴う募集株式発行等の特則(改正会社法206条の2)
以下の通り、①支配株主に関する情報の通知又は公告に関する特則(1項~3項)、②反対株主がいる場合の株主総会普通決議による承認の規定(4項、5項)が新設されました。
なお、新株予約権についても同様の規定が新設されました(244条の2)。
● 改正会社法206条の2(公開会社における募集株式の割当て等の特則)
- 公開会社は、募集株式の引受人について、第1号に掲げる数の第2号に掲げる数に対する割合が2分の1を超える場合には、第199条第1項第4号の期日(同号の期間を定めた場合にあっては、その期間の初日)の2週間前までに、株主に対し、当該引受人(......「特定引受人」......)の氏名又は名称及び住所、当該特定引受人についての第1号に掲げる数その他の法務省令で定める事項(※1)を通知しなければならない。
ただし、当該特定引受人が当該公開会社の親会社等である場合又は第202条の規定により株主に株式の割当てを受ける権利を与えた場合は、この限りでない。
一 当該引受人(その子会社等を含む。)がその引き受けた募集株式の株主となった場合に有することとなる議決権の数
二 当該募集株式の引受人の全員がその引き受けた募集株式の株主となった場合における総株主の議決権の数- 前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。
- 第1項の規定にかかわらず、株式会社が同項の事項について同項に規定する期日の2週間前までに金融商品取引法第4条第1項から第3項までの届出をしている場合その他の株主の保護に欠けるおそれがないものとして法務省令で定める場合(※2)には、第1項の規定による通知は、することを要しない。
- 総株主(この項の株主総会において議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の10分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主が第1項の規定による通知又は第2項の公告の日(前項の場合にあっては、法務省令で定める日)から2週間以内に特定引受人(その子会社等を含む。......)による募集株式の引受けに反対する旨を公開会社に対し通知したときは、当該公開会社は、第1項に規定する期日の前日までに、株主総会の決議によって、当該特定引受人に対する募集株式の割当て又は当該特定引受人との間の第205条第1項の契約の承認を受けなければならない。
ただし、当該公開会社の財産の状況が著しく悪化している場合において、当該公開会社の事業の継続のため緊急の必要があるときは、この限りでない。- 第309条第1項の規定にかかわらず、前項の株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行わなければならない。
※1 改正会社法施行規則42条の2
※2 改正会社法施行規則42条の3。有価証券届出書等。
● 趣旨
改正前の公開会社における募集株式発行等は、有利発行でないかぎり、取締役会決議で足りるとされていました。しかし、支配株主の異動は、会社経営の在り方に重大な影響を及ぼすことがあり得ることから、①株主に対する情報開示を行う(1項~3項)とともに、②株主の意思を確認する手続を経る(4項、5項)ことが必要であると考えられたため、上記規定が新設されました。
● 事業再生・倒産法関連
まず、私的整理手続において、スポンサーとなる新たな支配株主を公開会社に参入させるといった場合の手続的コストが増大するため、この点は留意する必要があります。確かに「事業の継続のため緊急の必要があるとき」には株主総会決議を省略できます(4項ただし書)ので、他の主要株主が反対した場合にこれを根拠に株主総会決議を省略したときが問題となるものと想定されます。しかし、あくまで例外的な規定ですので、会社としては安易に省略できるものではないという認識で臨むべきでしょう。
民事再生手続においても、原則として改正会社法の適用がありますが、支配株主の新規参入がなければ再生計画が立ち行かなくなるような場合には、「事業の継続のため緊急の必要があるとき」に該当し、株主総会決議を経ずに募集株式発行等ができる場合が多いと考えられます。
他方、会社更生手続においては、募集株式発行等は更生計画に定めなければ行うことができず(会社更生法45条1項1号)、株主総会決議を要しない(210条1項)こととされており、改正によって影響はないといえます。
会社法改正への対応は随時行っていかなければなりませんが、会社法だけをチェックすればよいというものではなく、事業再生・倒産段階においてもその影響が及びます。今回はその一例として、2つの改正点につき紹介しました。
■参考
「会社法の一部を改正する法律案」 (法務省HP)
「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」 (法務省HP)