本件は、Y社を吸収合併存続会社、A社を吸収合併消滅会社とする吸収合併(本吸収合併)に反対したA社株主のXが、A社に対して、株式の買い取りを請求したところ、その価格の決定について協議が調わず、Xが、会社法786条2項に基づき、価格の決定の申立てをしたという事案です(最高裁平成27年3月26日決定)。
非上場会社のA社は、平成24年6月6日、Y社との間で、効力発生日を同年10月1日として本吸収合併をする旨の合併契約を締結しました。上記契約は、同年8月8日開催のA社の株主総会において承認決議がされ、効力発生日にA社はY社に吸収合併されました。
Xは、上記株主総会に先立って本吸収合併に反対する旨をA社に対し通知し、上記株主総会において本吸収合併に反対し、同年9月12日、A社に対し、株式を公正な価格で買い取ることを請求し、同年11月21日、裁判所(原々審)に対し、株式の買取価格の決定の申立てをしました。
本件では、非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ、裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に、当該会社の株式には市場性がないことを理由とする減価(非流動性ディスカウント)を行うことができるか否かが争点となりました。
原々審において、鑑定人であるB公認会計士は、本件では収益還元法を用いるのが相当であり(1株につき106円)、また、非上場会社の株式は市場で容易に現金化することが困難であるため、非流動性ディスカウントとして25%の減価を行うのが相当であるとして、A社の株式の公正な買取価格は、1株につき80円であるとの意見を述べています。
そして、原審(札幌高等裁判所)は、収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合でも非流動性ディスカウントを行うことができるとして、株式の買取価格を1株につき80円とすべきとしました。
これに対し、最高裁判所は、非上場会社の株式の価格の算定について、「どのような場合にどの評価手法を用いるかについては、裁判所の合理的な裁量に委ねられていると解すべきである。しかしながら、一定の評価手法を合理的であるとして、当該評価手法により株式の価格の算定を行うこととした場合において、その評価手法の内容、性格等からして、考慮することが相当でないと認められる要素を考慮して価格を決定することは許されないというべきである。」「収益還元法は、当該会社において将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元することにより株式の現在の価格を算定するものであって、同評価手法には、類似会社比準法等とは異なり、市場における取引価格との比較という要素は含まれていない。吸収合併等に反対する株主に公正な価格での株式買取請求権が付与された趣旨が、吸収合併等という会社組織の基礎に本質的変更をもたらす行為を株主総会の多数決により可能とする反面、それに反対する株主に会社からの退出の機会を与えるとともに、退出を選択した株主には企業価値を適切に分配するものであることをも念頭に置くと、収益還元法によって算定された株式の価格について、同評価手法に要素として含まれていない市場における取引価格との比較により更に減価を行うことは、相当でないというべきである。」と判断しました。
そして、会社法785条1項に基づく非上場会社の株式買取請求において、裁判所が収益還元法を用いる場合には非流動性ディスカウントを行うことはできないとして、株式の買取価格を1株につき106円としました。
非上場会社の株式の価格の算定において、裁判所が収益還元法を採用した場合には非流動性ディスカウントを行うことはできないとの最高裁判所の判断は、今後の収益還元法を用いた非上場会社の株式の価格の算定実務に影響を与えるものと思われます。
参考:最高裁平成27年3月26日決定(許可抗告審)
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/016/085016_hanrei.pdf
札幌高裁平成26年9月25日決定(抗告審)