本件は買い物代行サービス業者ウェブサイトの内容が問題となった事案で、具体的には、(1)他社サイトに掲載されていた商品画像を転載した行為につき著作権侵害が、(2)ウェブサイトのhtmlファイル中、タイトルタグと説明メタタグに他社登録商標を記載していた行為につき商標権侵害が、問題となりました。ウェブサイト制作にあたって参考になる争点を含んだ事件ですので、紹介します。
【1】 事案の概要
原告は、家具等の店舗販売を行っているイケア(IKEA)です。原告は、自社商品を紹介するウェブサイト(原告サイト)を運営していますが、通信販売は行っていません。
被告は、原告商品の買い物代行サービスを行っていました。そのサービス内容は、被告が、「【STORE】イケア通販」等の名称のウェブサイト(被告サイト)を通じて消費者から原告商品の注文を募り、当該商品を原告店舗で購入し、梱包して発送し、消費者に転売するというものです。
【2】 争点
被告サイトで問題となったのは、以下の2つの行為です。原告はこれらを理由に、違反行為の差止と損害賠償を求めました。
(1)商品画像の転載行為
被告は、被告サイトの商品紹介ページにおいて、原告サイトの商品画像を転載していました。この商品画像は、原告が作成した写真画像でした。
原告は、これらの商品画像は自社の著作物であるから無断で転載することが著作権侵害にあたると主張しました。これに対して被告は、これらの商品画像はオリジナリティーや創造性に欠け、創作性がないから著作物にはあたらない等と反論しました。
(2)htmlファイル内のタイトルタグと説明メタタグに原告商標を使用した行為
被告サイトのhtmlファイルには、タイトルタグとして
<title>【IKEA STORE】イケア通販</title>
との記載があり、説明メタタグとして
<meta name="Description"content=" 【IKEA STORE】IKEA通販です。カタログにあるスウェーデン製輸入家具・雑貨イケアの通販サイトです。"/>
等の記載がありました。
タイトルタグは、文字通り当該ウェブページのタイトルを示す部分です。検索エンジンの検索結果が表示された場合に、各ページのタイトルとして一覧表示されるのがタイトルタグの部分です。
説明メタタグは、メタタグの一種で、当該ウェブページの概要を示す部分です。検索エンジンの検索結果が表示された場合に、各ページの紹介文として表示されるのが説明メタタグの部分です。
原告は、被告サイトのhtmlファイル中に、原告登録商標「イケア」「IKEA」等と類似の文字が記載されていることが商標権侵害にあたると主張しました。これに対して被告は、メタタグないしタイトルタグは通常人の目に触れるものではないから商標としての使用にはあたらないし、また被告サイトでは「『イケア』『IKEA』など、【IKEA STORE】イケア通販に掲載しているブランド名、製品名などは一般にInter IKEA Systems B.V. の商標または登録商標です。【IKEA STORE】イケア通販では説明の便宜のためにその商品名、団体名などを引用する場合がありますが、それらの商標権の侵害を行う意志、目的はありません。当店はイケア通販専門店になります。」との文章を掲載しているから、正当な引用行為であると反論しました。
【3】裁判所の判断
裁判所は以下のように判断して、(1)商品画像の転載にかかる著作権侵害、(2)htmlファイル内の原告商標使用にかかる商標権侵害をいずれも認めました。
(1)商品画像の転載行為
原告各写真は、原告製品の広告写真であり、いずれも、被写体の影がなく、背景が白であるなどの特徴がある。また、被写体の配置や構図、カメラアングルは、製品に応じて異なるが、原告写真A1、A2等については、同種製品を色が虹を想起せしめるグラデーションとなるように整然と並べるなどの工夫が凝らされているし、原告写真A9、A10、H1ないしH7、Cu1、B1、B2、PB1については、マット等をほぼ真上から撮影したもので、生地の質感が看取できるよう撮影方法に工夫が凝らされている。これらの工夫により、原告各写真は、原色を多用した色彩豊かな製品を白い背景とのコントラストの中で鮮やかに浮かび上がらせる効果を生み、原告製品の広告写真としての統一感を出し、商品の特性を消費者に視覚的に伝えるものとなっている。
......そうであるから、原告各写真については創作性を認めることができ、いずれも著作物であると認められる。
つまり撮影者のカメラワーク等に工夫が凝らされていることを理由に、写真の著作物として創作性が認められました。
ただ、広告写真としての商品画像の創作性の程度は比較的低いこと等から、著作権侵害による損害賠償額は、被告サイト上での掲載期間に関わらず、1著作物あたり1000円と認定されています。
(2)htmlファイル内のタイトルタグと説明メタタグに原告商標を使用した行為
インターネットの検索エンジンの検索結果において表示されるウェブページの説明は、ウェブサイトの概要等を示す広告であるということができるから、これが表示されるようにhtmlファイルにメタタグないしタイトルタグを記載することは、役務に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する行為に当たる。そして、被告各標章は、htmlファイルにメタタグないしタイトルタグとして記載された結果、検索エンジンの検索結果において、被告サイトの内容の説明文ないし概要やホームページタイトルとして表示され、これらが被告サイトにおける家具等の小売業務の出所等を表示し、インターネットユーザーの目に触れることにより、顧客が被告サイトにアクセスするよう誘引するのであるから、メタタグないしタイトルタグとしての使用は、商標的使用に当たるということができる。
以上のとおり、タイトルタグ及び説明メタタグは、検索結果において表示され、広告として機能するのだから、商標としての使用にあたると判断されました。
また、被告サイトには「商標権の侵害を行う意志、目的はない」旨の記載があるから正当な引用行為であるとの反論は、以下とおり退けられています。
(そのような)文言が記載されているとしても、これは被告サイトのウェブページの最下部に記載されていることが認められ、タイトルタグ又はメタタグと一体となって記載されているものではないから、かかる文言のみを根拠としてメタタグ又はタイトルタグに被告各標章を使用することが正当な行為であるということはできない。被告の主張は、採用することができない。
ただ裁判所は、商標権侵害行為の差止は認めたものの、侵害行為によって原告が損害を被ったとはいえないとして損害賠償請求は認めませんでした。原告は通信販売を行っていないため被告と競争関係には立たず、むしろ被告が被告サイトを運営し、原告から商品を購入することで、原告は利益を得ているのだから、被告サイトによる侵害行為がなかったならば原告は利益を得られたであろうという関係にはないため、損害発生の基礎となる事情がないためです。
(3)結論
裁判所は、差止請求等は認め、損害賠償請求については弁護士費用等を含め24万円の限度で認容しました。
【補】キーワードメタタグと商標権侵害の問題
説明メタタグに他社登録商標を記載する行為が商標的使用にあたるとの判断は、過去の裁判例でも示されていました(大阪地判平成17年12月8日)。説明メタタグに記載した文言は、検索エンジンの検索結果にて表示され、消費者の目に入ることになるので、商標としての機能を果たしているためです。
これに対し、キーワードメタタグに他社登録商標を記載する行為が商標的使用にあたるか否かという問題は、依然残っています。
キーワードメタタグとは、htmlファイル内において
<meta name="keywords" content="~"/>
として記載されるメタタグで、当該ウェブページに関連するキーワードを記載する部分です。
キーワードメタタグは、タイトルタグや説明メタタグと異なり、検索エンジンの検索結果にも表示されないので、「ページのソースを表示」しないかぎりは消費者の目に触れません。
この場合でも他社登録商標を記載する行為が商標的使用にあたるかについては否定説が強いところですが、国外の裁判例では別の観点から商標権侵害を肯定しているものもありますので、必ずしも商標権侵害が認められないとは言い切れません。
現在の検索エンジンはメタタグの記述をほとんど評価しておらず、SEO上の効果は限られているとも言われていますが、なお多くのウェブページに記載されているメタタグと商標権侵害の問題について、今後の裁判例の蓄積が注目されます。
参考:東京地判平成27年1月29日
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/881/084881_hanrei.pdf