以前「全部取得条項付種類株式を利用したスクイーズアウトと基準日制度に関する裁判例」(News Letter vol.168)として紹介したアムスク株主総会決議取消請求事件ですが、その控訴審で、東京高裁は平成27年3月12日に、スクイーズアウトに関する決議を取り消した第1審判決を維持し、会社・株主双方の控訴を棄却する判決を言い渡しました。今回は、この控訴審判決を紹介します。
【1】 事案の概要
本件は、全部取得条項付種類株式を利用したスクイーズアウトの際の種類株主総会で、議決権を行使することができる種類株主を定めるための基準日の設定が適法であったかが争われていた事案でした。
本件で被告会社は、平成25年6月28日の株主総会において、全部取得条項付種類株式を定める定款変更をすると同時に、種類株主総会の議決権行使の基準日について普通株式の定款規定を準用する(基準日は平成25年3月31日とする)旨の定款変更を行いました。これにより被告会社は、種類株主総会で議決権を行使することができる種類株主を定める基準日を、遡って平成25年3月31日に設定したものとして扱いました。
これに対して一部の株主が、種類株主総会に関する基準日の設定は、事前に公告がなされていないため違法であると争いました。
第1審判決(東京地裁平成26年4月17日判決)は、原告株主の主張を認め、被告会社の種類株主総会招集手続には違法であると判断しました。これは、種類株主総会で議決権を行使することのできる種類株主の基準日を定める定款の定め自体が、基準日の2週間前までに存在することが必要であるとの理由によるものでした。
【2】 控訴審の争点
(1) 種類株主総会の基準日の設定の適法性
被告会社は、種類株主総会において基準日にかかる定款の変更の効力を遡及させても、不利益を被る株主は存在しないから、本件で行った基準日の設定方法は適法であると争いました。
(2) 訴えの利益の喪失
被告会社は、第1審判決の後である平成26年7月、本件全部取得条項付種類株式の取得日前日である平成25年7月21日時点の株主名簿上の株主を集めた集会を開き、種類株主総会決議を追認する内容の決議を行っていました。被告会社は、取得日前日の種類株主が追認したのだから、問題となっている平成25年6月28日の種類株主総会の決議の取消を求める訴えの利益はなくなったと主張しました。
【3】 控訴審裁判所の判断
(1) 種類株主総会の基準日の設定は違法である
控訴審も、第1審判決を支持し、被告会社の種類株主総会の基準日設定は違法であったと判断しました。
裁判所は、今回のような基準日の定め方によって、基準日翌日(平成25年4月1日)から種類株主総会決議日(同年6月28日)までに被告会社株式を取得した株主は、株式を有しているのに議決権を行使できないという不利益を被ることになるとして、不利益を被る株主が存在しないという被告会社の主張を退けました。
なお被告会社からは裁量棄却の主張もされていましたが、違反が重大でないとはいえないとして、退けられています。
(2) 訴えの利益は喪失していない
控訴審は、種類株主総会取消判決が確定していない現段階において、被告会社の株主はスクイーズアウト後の株主であるという前提に立ち、第1審判決後の集会決議は株主でない者らが行った決議にすぎないから、株主総会決議と同様の効力は有しないとしました。さらに、追認の決議を認めることは、種類株主総会招集手続に法令違反があるため反対株主の手続的保障を奪うことにもなるから、被告会社の主張を認めることはできないとしました。
結論として、訴えの利益が失われることはないと判断しました。
【4】 まとめ
本件は公開会社におけるスクイーズアウトに関する決議取消請求が認容され、種類株主総会の基準日の設定に関し株主総会実務において重要な判断がなされていたことから、控訴審の判断にも注目が集まっていました。そして、控訴審判決も1審判決を維持し、被告会社による事後の追完措置も否定しました。
今回と同様のケースでは基準日の2週間前までに潜在的種類株主に対して公告を行うという事前措置を行っておかないと、手続が違法とされ、決議が覆ってしまう可能性があります。株主総会準備にあたっては本判決の内容をふまえ、対応を検討しておくことが必要となります。