労働基準法改正案(特定高度専門業務・成果型労働制)についての解説

労働基準法
労働基準法改正案の概要

 具体的な改正案については、厚生労働省のHPで新旧対照条文 が掲載されていますが、今回は、上記改正内容のうち最も注目されている、「Ⅱ(3)特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」について紹介します。

特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設

 まずは、条文案を紹介します。

● 労働基準法41条の2(改正案)

  1. ......委員会(使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とするものに限る。)が設置された事業場において、当該委員会がその委員の5分の4以上の多数による議決により次に掲げる事項に関する決議をし、かつ、使用者が、厚生労働省令で定めるところにより当該決議を行政官庁に届け出た場合において、第2号に掲げる労働者の範囲に属する労働者(......対象労働者......)であつて書面その他の厚生労働省令で定める方法によりその同意を得たものを当該事業場における第1号に掲げる業務に就かせたときは、この章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しない。ただし、第3号又は第4号に規定する措置を使用者が講じていない場合は、この限りでない。

    一 高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務(......「対象業務」......)

    二 この項の規定により労働する期間において次のいずれにも該当する労働者であつて、対象業務に就かせようとするものの範囲
     イ 使用者との間の書面その他の厚生労働省令で定める方法による合意に基づき職務が明確に定められていること。
     ロ 労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を1年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額(厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月きまつて支給する給与の額を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した労働者1人当たりの給与の平均額をいう。)の3倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること。

    三 対象業務に従事する対象労働者の健康管理を行うために当該対象労働者が事業場内にいた時間(......委員会が......時間を除くことを決議したときは、当該決議に係る時間を除いた時間)と事業場外において労働した時間との合計の時間(......「健康管理時間」......)を把握する措置(厚生労働省令で定める方法に限る。)を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。

    四 対象業務に従事する対象労働者に対し、
    次のいずれかに該当する措置を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が講ずること。
     イ 労働者ごとに始業から24時間を経過するまでに厚生労働省令で定める時間以上の継続した休息時間を確保し、かつ、第37条第4項に規定する時刻の間において労働させる回数を1箇月について厚生労働省令で定める回数以内とすること。
     ロ 健康管理時間を1箇月又は3箇月についてそれぞれ厚生労働省令で定める時間を超えない範囲内とすること。
     ハ 1年間を通じ104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日を確保すること。

    五 対象業務に従事する対象労働者の健康管理時間の状況に応じた当該対象労働者の健康及び福祉を確保するための措置であつて、当該対象労働者に対する有給休暇の付与、健康診断の実施その他の厚生労働省令で定めるものを当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。

    六 対象業務に従事する対象労働者からの苦情の処理に関する措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。

    七 使用者は、この項の規定による同意をしなかつた対象労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと。

    八 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項

  2. 前項の規定による届出をした使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、同項第4号及び第5号に規定する措置の実施状況を行政官庁に報告しなければならない。

  3. 第38条の4第2項、第3項及び第5項の規定は、第1項の委員会について準用する。

【要件】

1 対象労働者(1項2号参照)

 ① 対象業務の範囲(1項1号)

 「高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められる」業務が対象となります。

 具体的には、今後厚生労働省令で定められる予定ですが、労働政策審議会の議事録や「今後の労働時間法制等の在り方について(報告)」8~9頁では、以下の業務が該当するとしています。


・金融商品の開発業務

・金融商品のディーリング業務
・アナリストの(企業・市場等の高度な分析)業務
・コンサルタントの(事業・業務の企画運営に関する高度な考案又は助言)業務
・研究開発業務

 また、企業側のヒアリング結果(4頁)では、以下の業務が「高度な職業能力を有する者」に含まれると想定していますが、かなり広範な業務を想定しており、これらが厚生労働省令で規定されるかは不明です。

業 種 業務内容
証 券


• ファイナンス・M&Aに関するアドバイザリー業務
• 有価証券の売買業務
• 金融商品の開発業務
• 企業・市場等の分析業務
• 対法人向けの金融商品の営業

銀 行


• 有価証券の売買業務

情報通信


• システムエンジニアの業務
• コンサルタントの業務
• 営業

製 薬


• 研究開発業務
• 管理部門(財務、人事、法務)
• 営業(MR)
• 製品の生産技術の開発業務

2 健康管理措置

 ③ 健康管理時間の把握措置(1項3号)

 現段階で想定される具体的な健康管理時間の把握方法としては、原則、タイムカード・パソコンの起動時間等による管理によることとし、例外的に、事業場外労働の場合の自己申告制を認めるといったものがあります。

 ④ 時間管理による健康・福祉確保措置(選択的措置)(1項4号イロハ)

 以下の3つの措置のうち1つを選択し、これを就業規則等で定める必要があります。具体的な措置内容の確定は厚生労働省令が出てからとなります。


㋑ 始業後24時間について一定時間(厚生労働省令で定める)以上の継続的
  休息の確保+深夜労働の月一定回数(厚生労働省令で定める)以内の実施
㋺ 健康管理時間(事業場内にいた時間+事業場外で労働した時間)が1か月
  or3か月について一定時間(厚生労働省令で定める)以内とすること
㋩ 4週間を通じ4日以上 + 年104日以上 の休日の付与

3 手続的要件(1項柱書本文)

 ⑤ 労使委員会の設置 + 5分の4以上の多数による決議

 ⑥ 行政官庁に対する決議の届出

決議事項は、上に解説した事項を含む以下の事項です。


㊀ 対象業務の範囲(1号)
㊁ 対象労働者の範囲(2号)
㊂ 健康管理時間の把握措置(3号)
㊃ 健康管理時間に基づく健康・福祉確保措置(4号、5号)
㊄ 苦情処理措置(6号)
㊅ 対象労働者の不同意に対する不利益取扱の禁止(7号)
㊆ その他厚生労働省令で定める事項(8号)

 ⑦ 対象労働者の書面等による同意

 対象労働者に該当すれば当然に制度が適用されるというものではなく、当該対象労働者の同意が要件とされています。しかし、労働者側としては、事実上同意を強制されるのではないかとの点が懸念されています。使用者側においては、対象労働者が後に同意が無効であったとして、残業代等を請求するトラブルが想定されますので、同意取得手続については慎重にされるべきでしょう。

 ⑧ 健康管理時間に基づく健康・福祉確保措置の実施状況の行政官庁への報告(2項)

 手続的には、決議を定めるだけでは足りず、1項4号・5号の実施状況の報告を行う必要があります。

【効果】―労働時間、休息、休日・深夜割増賃金に関する規定の適用除外(1項柱書本文)

 以上の要件をみたす場合、1日8時間・週40時間労働規制、休日・深夜割増賃金の不支給などの効果が生じ、深夜割増賃金の支払義務がある「管理監督者」より強力な効果が生じることとなる予定です。

施行日

 施行日は、平成28年4月1日を予定しています。

 対象労働者に相当する者のいる企業におかれては、この制度の導入について、さまざまな手続・整備が必要ですので、早い段階で検討されるとよいでしょう。

■参考

 「労働基準法等の一部を改正する法律案(平成27年4月3日提出)」(厚労省HP)
 労働基準法(現行法)

Category:労働基準法

TAGS:労働基準法 , 改正案

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