商品比較サイトの発信者情報開示請求が認められた事例

発信者情報開示請求

 会社が自社製品を宣伝する際に,それが宣伝であると消費者に悟らせないようにするマーケティング手法を「ステルスマーケティング」(略してステマ)といいます。口コミサイトで一般消費者を装って,自社製品の優位性を宣伝するような場合です。逆のパターンで,他社商品の悪評価を宣伝することを「逆ステマ」と呼ぶこともあります。

 今回紹介する裁判例は,ステマないし逆ステマ行為を行っている商品比較サイトの発信者情報開示請求について,不正競争による営業上の利益の侵害を認め,開示請求を認容した事例です。

【1】 事案の概要 

 原告は家庭用脱毛器「X」を販売している会社です。

 問題となったウェブサイトは,2つあります。

 ウェブサイト1は,原告の商品名「X」を冠したドメイン名「X.asia」をもつサイトです。家庭用脱毛器の性能を検証・比較することを謳っているサイトですが,最後まで読むと,X製品と比べて,ある特定の会社の脱毛器「A」の優位性を宣伝し,その販売サイトに誘導する内容になっていました。

 ウェブサイト2は,「脱毛器徹底比較.com」のドメイン名をもつサイトです。こちらはXおよびAを含む各社家庭用脱毛器の価格,性能等が比較して記載され,評価を表すレビュースコアが付されているランキングサイトです。このサイトでは,X製品と比べてA製品が高いレビュースコアを得ていましたが,そこに記載されているX製品の性能表示には真実とは異なる記載がありました。

 原告は,ウェブサイト1に関しては自社製品名をドメイン名として無断で不正に利用していることを理由に,ウェブサイト2に関しては自社製品の性能に誤認を招く表示があることを理由に,ウェブサイトの掲載を差し止めること等を検討します。ところがこのウェブサイトには,運営者の名称や連絡先が一切書かれていなかったため,原告は直接サイト運営者に対して差止め請求をすることができません。そこで原告が,レンタルサーバー業者である被告に対し,プロバイダ責任制限法4条1項に基づき,発信者情報(運営者の氏名または名称,住所および電子メールアドレス)を開示するよう求めたのが本件訴訟です。

2】 争点

 ①ウェブサイト1について,ドメイン名と商品名の類似性,およびサイト運営者のドメイン名使用に「不正に利益を得る目的」があるか。

 ②ウェブサイト2について,Aの品質を誤認させるような表示をしているか。

 【3】 裁判所の判断

①ウェブサイト1について

  • ドメイン名と商品名の類似性

 ドメイン名と原告の商品名の類似性について,裁判所は,以下のように述べて簡単に類似性を認めています。

 本件ドメイン名の「X.asia」のうち,「.asia」の部分はいわゆるトップレベルドメインであって識別力が弱いから,本件ドメイン名の要部は,「X」の部分であるところ,これは,原告表示と少なくとも外観及び称呼が同一又は類似するから,...類似のドメイン名であると認められる

  • サイト運営者のドメイン名使用に「不正に利益を得る目的」があるか

 不正競争防止法は,「不正の利益を得る目的で」ドメイン名を使用する行為を禁止しています。本件では,問題のウェブサイトを運営している者が,そこで宣伝されている特定の家庭用脱毛器メーカーであるかどうかはわかっていません。そこで,そのようなウェブサイトを運営することにより,サイト運営者に「不正の利益を得る目的」があるといえるかが問題となりました。

 しかし裁判所は,以下のように述べて,不正の利益を得る目的があると判断しました。

 事実を総合考慮すると,本件ドメイン名の現在までの登録者や本件サイト1の契約者は,...A社商品関係者...である蓋然性が高いと認められるのであって,本件サイト1の契約者は,原告表示と類似する本件ドメイン名を使用して,原告商品との混同を生じさせ,その顧客吸引力を利用して,訴外会社商品に誘引して販売利益を上げようとして,本件ドメイン名を本件サイト1に使用していると認められる。

 したがって,本件サイト1の契約者は,不正の利益を得る目的で,原告の特定商品表示である原告表示と類似の本件ドメイン名を使用するものであり,不正競争防止法2条1項12号の不正競争に当たる。

 ②ウェブサイト2について

 ウェブサイト2には,出力52ジュールの原告X製品に対して,A製品の「78ジュールの出力は業界ナンバー1」との記載がありました。しかし証拠によれば,測定条件を同一にして原告X製品の出力を計測した場合,X製品の出力は約110ジュールとなることが認められました。

 裁判所は,ウェブサイト2においてA製品の出力について,「78ジュールの出力は業界ナンバー1」のような断定的な記載をすることはA製品の出力性能という品質について誤認させるような表示をするものであると認め,不正競争防止法2条1項13号の不正競争にあたると判断しました。

 結論として,裁判所は以下のように述べ,権利侵害をいずれも認め,それらを理由とした発信者情報開示請求を認容しました。

 原告が家庭用脱毛器の販売を営んでいることに照らすと,原告は,前記の各不正競争により,営業上の利益を侵害され,また,今後もこれを侵害されるおそれがあると認められるから,本件サイト1に使用される本件ドメイン名,本件サイト2及び3における「78ジュールの出力は業界ナンバー1」,「業界1の高出力」等の記載といった侵害情報の流通によって原告の権利が侵害されたことは明らかである。

【4】 逆ステマへの対応

  従来から口コミサイトやランキングサイトで悪い評判を立てられてしまった業者が,当該サイトに対して発信者情報開示請求を行った例はありましたが,それらの事件では名誉・信用といった権利利益の侵害を理由に請求が認容されていました(京都地判平26年9月4日など)。それに対して本件は,正面から営業上の利益の侵害があるとして請求を認容しています。問題となったウェブサイトが,もはやステルスとは言えないほどあからさまな宣伝を行っており,サイト運営者がA製品販売業者の関係者である蓋然性が高いと裁判所に認定されたことがポイントと思われます。

 今後,原告は,開示請求で明らかとなったウェブサイト運営者に対して,サイトの差止め等を請求することになります。ウェブサイト運営者が任意に請求に応じない場合は,さらに差止請求訴訟等を提起しなければなりませんが,そこで改めて「不正の利益を得る意図がなかった」などの反論がなされ,最終的に権利侵害がないと判断される可能性は一応あります。

 逆ステマによって理由なく自社の評判が貶められているような場合は,迅速に情報の発信源を突き止めて対応することが大切です。

 

参考:東京地判平成26年12月18日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/751/084751_hanrei.pdf

Category:発信者情報開示請求

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