今回は、裁判例(名古屋高裁平成20年4月17日判決)の紹介を通じて取締役の競業避止義務に関する基本的なポイントを解説します。
【1】 取締役が負う「競業避止義務」とは
取締役は、会社法356条1項1号にて「取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとする」には、株主総会又は取締役会にて、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければなりません。これが「競業避止義務」と呼ばれるものです。
名古屋高裁の裁判例では、貸コンテナ業を営むX社の代表取締役Yは、その就任期間中に同じく貸コンテナ業を営むZ社の取締役に就任しました。Yは、このZ社では、出資者でもなければ代表者でもありませんが、Z社に対して運転資金の貸付を行い、土地の賃貸借の連帯保証人となるとともに、X社が取引している業者をZ社に斡旋し、しかも、事務所の提供などを行っていました。また、Z社の出資者や代表者はYの親族でした。
このような事情を踏まえ、裁判所は、YはZ社において中心的な役割を果たす事実上主宰者と認め、Yの行為は競業避止義務違反にあたると認定しました。
【2】 競業避止義務に違反した場合に負う責任
そして、この競業避止義務は、取締役の責任を通常よりも重くしている点に特色があります。通常、取締役が法令に違反して損害賠償を負う場合、損害を受けた者が、被った「損害額」を立証しなければなりません。これに対し、会社法423条2項は「当該取引によって取締役、又は第三者が得た利益の額は、損害の額と推定する。」という特別な規定を設け、「取締役と第三者」が得た「利益額」を損害賠償責任の額とすることを認めています。
名古屋高裁の裁判例では、X社は、損害額として①「X社の逸失利益」と、この特別規定による②「Yが得た利益額」を主張したところ、①「X社の逸失利益」については立証が尽くされていないものとして認められませんでしたが、②「Yが得た利益額」についてはX社の主張が認められました。しかも、この②「Yが得た利益額」というものの認定が特殊でした。というのも、Z社は赤字企業であったため、Z社の利益を通じてYが得るような利益は無いようにも思えました。しかし、YがZ社から受けていた役員報酬に着目し、Yが得た役員報酬の5割をYが得た利益として認定し、損害賠償額を1,953万円と認定しました。
【3】 まとめ
このように、取締役に課された競業避止義務というのは、取締役が競合する会社の代表者でないとしても、中心的な役割を果たしていれば違反と認定されるおそれがあること、その損害賠償額についても、たとえ競業していた会社が赤字であったとしても、役員報酬にまで着目して認定されるということで、幅広く判断されるものであるということに注意が必要です。