株主代表訴訟提起の適法性等が争われた裁判例

会社法株主代表訴訟

 株主代表訴訟は、株主が、会社を代表して、取締役、監査役等に対する責任を追及する訴訟です。会社法では、まずは会社自らが取締役、監査役等に対する訴訟を申し立てるように請求することなど、株主代表訴訟を提起するための条件が定められています。

 今回ご紹介する裁判例(東京高裁平成26年4月24日判決)では、株主代表訴訟を提起するために会社法上要求されている条件を満たしているかどうか、訴訟提起の適法性が争点のひとつとなりました。

事案の概要

 A社は、信託による不動産流動化を実施し、これに関する会計処理に基づいて平成20年8月期の有価証券報告書等を提出し、法人税の確定申告をしました。

 ところが、A社は、平成20年12月、証券取引等監視委員会による行政指導を受け、過年度決算の自主訂正を行い、平成21年2月20日、これを踏まえた有価証券報告書等の訂正報告書等を提出しました。

 その後、金融庁長官は、有価証券報告書等に虚偽記載があったことなどを理由に、A社に対し、課徴金2億5353万円の納付を命じ、A社は、これを納付しています。

 この経緯を受け、A社の株主であるXは、A社の取締役であった者らに対し、A社への損害賠償を求めて訴訟提起しました。請求の内容は以下のとおりです。なお、予備的請求は、訴訟提起から約2年経過後に追加されました。

(1)主位的請求

 不動産流動化の実行当時、A社の取締役又は監査役であった者、及び不動産流動化の終了当時、A社の取締役、監査役又は顧問であった者(Y1~Y8)は、不動産流動化の実行に係る会計処理等又は不動産流動化の終了に係る会計処理等に関し任務懈怠があるので、旧商法266条1項5号、会社法423条1項又は民法415条に基づき、A社に対する22億5353万円(課徴金2億5353万円と過大納付した法人住民税及び法人事業税20億円の合計)の支払を求める。

(2)予備的請求

 平成21年7月当時、A社の取締役又は監査役であった者は、A社において課徴金の納付の意思決定をしたことに関し任務懈怠があるので、会社法423条1項に基づき、A社に対する2億5353万円(課徴金額)の支払を求める。

争点

 本件では、会計処理の適法性なども争点となりましたが、今回は、株主代表訴訟提起の適法性についてのみ取り上げます。

 株主代表訴訟提起の適法性を満たすかどうか、具体的に争いになったのは以下の点です。

(1)Xが、株主代表訴訟提起前に、A社に対し、一部の取締役及び監査役に対する責任を追及することを求めなかったことにより、当該取締役及び監査役に対する請求は、会社法847条1項の請求(提訴請求)を欠くものとして不適法却下されるか。

(2)A社が債務を負担した時点でA社の取締役を退任していた者(退任後に顧問となった者を含む)に対する責任追及は不適法却下されるか。

(3)Xが、株主代表訴訟提起前に、A社に対し、予備的請求について取締役らの責任を追及することを求めなかったことにより、予備的請求は提訴請求を欠くものとして不適法却下されるか(なお、訴えを変更して予備的請求を追加する前の段階では、Xは、A社に対し、当該事項について提訴請求をしています。)。

判断

(1)提訴請求を欠く取締役及び監査役に対する請求について

 裁判所は、「Xは、本件訴え提起ないし主張の追加の前に、A社に対し、Y3の取締役としての責任やY4の監査役としての責任を追及することを求めておらず、...提訴請求を欠く瑕疵がある」としたものの、「A社は、本件訴訟において、Yらに補助参加をしており、また、提訴請求の欠缺について何ら言及せず、Y3及びY4に対する訴え提起の見込み等についても何ら明らかにしていないことに照らせば、A社は、Y3及びY4に対する訴えの提起の機会を放棄している」としました。

 そして、「提訴請求を株主代表訴訟の要件とする趣旨は、会社に対し、訴えを提起するか否かの検討をする機会を与える点にある」、「会社が訴えの提起の機会を放棄しているものとみることができる場合にまで、提訴請求の欠缺を理由に株主代表訴訟の提起を不適法とする理由はない」として、Y3及びY4に対する責任追及に係る訴えは、提訴請求を欠いているものの不適法ではないとしました。

(2)退任取締役に対する請求について

 裁判所は、「会社法847条3項に基づき...提起することができる『責任追及等の訴え』は、『役員等...の責任を追及する訴え』等に限られる(同条1項)ところ、役員等であった者が退任後に株式会社に対し負担することになった債務についての責任は、上記『役員等...の責任』には含まれない」として、退任取締役に対する請求を不適法却下しました。

 その理由としては、「当該役員等であった者が役員等であった当時においては負っていなかった責任...が『役員等...の責任』に含まれると解するのは、その文言上困難である」、「会社法847条3項...は、役員等が会社に対して責任を負う場合、役員等相互間の特殊な関係から会社による役員等の責任追及が行われないおそれがあるので、会社や株主の利益を保護するため、会社が取締役の責任追及の訴えを提起しないときは、株主が同訴えを提起することができることとしたものと解されるが、役員等であった者が退任後に負担する債務についてまで、株主代表訴訟の提起を認める実益に乏しい」という点を挙げています。

(3)予備的請求の提訴請求の時期について

 裁判所は、「予備的請求に係る訴えは、訴えの変更によって追加されたものであるところ、訴えの変更は、変更後の新請求については新たな訴えの提起にほかならないから、変更後の訴えについての提訴請求の有無は、原則として、訴えの変更の時を基準としてこれを決すべきである」として、「Xは、訴えの変更に先立ち、A社に対し、予備的請求に係る提訴請求を行っているものと認められるから、予備的請求に係る訴えは、提訴請求を欠くものとはいえない」としました。

解説

(1)提訴請求の欠缺について

 株主が代表訴訟を提起するには、原則として、①会社に対して提訴請求をすること、②会社が提訴請求の日から60日以内に訴え提起しないことが要求され(会社法847条1項・3項)、例外的に、60日間の経過により会社に回復できない損害が生ずるおそれがある特別の事情がある場合は、株主は、会社のために、直ちに代表訴訟を提起することができるとされています(同条5項)。

 この特別な事情がないにもかかわらず、株主が会社に対して提訴請求をしなかったなどの瑕疵がある状態で株主代表訴訟が提起され、その後、会社が提訴の意思がないことを表明したり、提訴の意思がないかのような行動をとった場合、当該瑕疵が治癒されたとして株主代表訴訟提起を適法と評価できるかが問題となります。

 裁判例では判断が分かれていますが、本件では、裁判所は、会社法が提訴請求を要求している趣旨を、会社に訴えを提起するか否かの検討をする機会を与えることとした上で、A社が被告ら(Yら)に補助参加した事実等に鑑み、A社自身が役員等に対する訴え提起をするか否かの検討をする機会を放棄したとして、株主代表訴訟提起を適法としました。

(2)株主代表訴訟の被告適格について

 会社法では、株主代表訴訟の被告となる者は、取締役、監査役等、会社法に定められている者に限定されます(会社法第847条第1項)。

 本件では、退任取締役に対し、取締役退任後に発生した問題について、株主代表訴訟を提起しうるかが争点となりましたが、裁判所は、これを否定しています。その理由として、会社法上明記されている株主代表訴訟の被告となる者に退任取締役を含むと解釈することは文言上難しいこと、退任取締役が退任後に負担する債務についてまで株主代表訴訟の提起を認める実益に乏しいことを挙げています。

(3)訴え変更と提訴請求について

 本件では、株主代表訴訟提起から約2年経過後に予備的請求が追加されました。裁判所は、この予備的請求の追加(訴えの変更による追加)と提訴請求の要否及び時期について、予備的請求に係る提訴請求は必要であるものの、株主代表訴訟提起の前ではなく、訴えの変更の前に行えば足りるとしています。

 株主からの提訴請求を受けた、株主代表訴訟を提起された等、株主代表訴訟に関するご相談は当事務所にお問い合わせください。

(参考)

    東京高裁平成26年4月24日判決(控訴審)

    東京地裁平成25年12月26日判決(第一審)

Category:会社法 , 株主代表訴訟

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