画面デザインの模倣を防げるか?

不正競争防止法意匠法著作権

 自社のゲームアプリとそっくりのゲームアプリを,競合他社が販売していた場合,どのような対処が可能でしょうか。特定のキャラクターデザインやプログラムのソースコードの盗用であれば,著作権侵害を主張することができます。ではキャラクターやソースコードがそのままコピーされているわけではないが,ゲームの操作画面(ユーザーインターフェース)のデザインが模倣されている場合は,法律上どのような主張をすることができるでしょうか。

著作権法による保護

 ゲームの画面デザインの模倣に著作権侵害が成立するかが争われた例として,グリー対DeNA事件(知財高裁平成24年8月8日判決)があります。この事件で知財高裁は,両社が販売している魚釣りゲームの操作画面の類似について次のように述べて著作権侵害の成立を否定しました。

被告作品の魚の引き寄せ画面は,アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において原告作品の魚の引き寄せ画面と同一性を有するにすぎないものというほかなく,これに接する者が原告作品の魚の引き寄せ画面の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない

 sakana.jpg

 つまり,両社ゲームの画面デザインに共通しているのは,単なるアイデアか,魚釣りゲームとしてありふれた表現部分にすぎないから,著作権法上保護される創作的表現ではないため,著作権侵害は成立しないということです。ちなみに1審(東京地裁平成24年2月23日判決)は著作権侵害の成立を認めていましたが,2審がこれを覆し,最高裁も2審の判断を維持しましたので,1審原告敗訴の判断が確定しています。

 スケジュール管理ソフトなどのビジネスソフトウェアについても画面デザインの模倣に関する裁判例がいくつかあります。しかし,いずれも著作権侵害を否定しています。例えばサイボウズ事件(東京地裁平成14年9月5日判決)では著作権侵害の成立する場合を次のように限定的に解釈しています。

原告ソフトの表示画面を著作物と解することができるとしても,その複製ないし翻案として著作権侵害を認め得る他者の表示画面は,いわゆるデッドコピーないしそれに準ずるようなものに限られるというべきである。

 これは,機能性や利便性を重視するビジネスソフトウェアの性質上,画面デザインのパターンは絞られ,同種のソフトウェアはどうしても似通ってしまうことに配慮したものです。

 このように,画面デザインの模倣を防ぐにあたって著作権侵害を主張することは,ややハードルが高いと言わざるをえないでしょう。

不正競争防止法による保護

 上記グリー対DeNA事件およびサイボウズ事件では,著作権侵害の主張と合わせて,不正競争防止法第2条第1項第1号(周知表示混同惹起行為)違反の主張もされていました。

 周知表示混同惹起とは,独自性のある画面デザインを採用していることにより「この画面デザインといえばこのゲームだな」と一般に知られているような状況がある中で,その画面デザインを模倣したゲームを作って購入者に製作元を誤認させるような行為のことです。

 しかし2つの事件では,不正競争防止法違反の主張も認められていません。グリー対DeNA事件2審判決で示された理由は,画面デザインはゲーム中の一画面にすぎず,また通常はゲームを購入して使用する段階で初めて見ることになるため,「この画面デザインといえばこのゲームだ」といえるような状況が生じていないからというものです。

 かつて「スペース・インベーダー」ゲームを模倣したゲームを製造販売した会社の行為が,不正競争防止法違反であると認められた例(東京地裁昭和57年9月27日判決)がありました。逆に言えば,インベーダーゲームぐらいに独自性・新規性をもった画面デザインでないと不正競争防止法違反を主張することは難しいのです。

意匠法による保護

 工業製品のデザインの保護を目的とする法律として,意匠法があります。ではゲームアプリの画面デザインを意匠登録して,独占的に使用することはできるのでしょうか。

 画面デザインを意匠登録するための要件
 (1) 物品と一体となったデザインであること
 (2) 物品の機能や操作のためのデザインであること

 意匠登録が認められる画面デザインの例としては,デジタルカメラの液晶パネルに表示される操作部分や,スマホのロック解除操作画面があります。これらは物品(デジカメ,スマホ本体)と一体的に創作されており,操作のための画面デザインであるので,意匠登録が可能です。これに対し,パソコンのOSインターフェースやスマホのダウンロードアプリケーションは,特定の物品と一体的に創作されていないため,上記要件(1) を満たしません。ゲームアプリの画面デザインも,特定の物品と一体となったデザインではないため,意匠登録できないこととなります。

 このように意匠法によっては,アプリの画面デザインの模倣を防ぐことができません。

まとめ

 以上みてきたように,画面デザインの模倣を防ぐための法律上の手段はいずれも不十分といわざるをえません。これは,スマホのタッチパネルなど,従来存在しなかったインターフェースに関する技術が急速に発達しており,それに法律が追い付いていないことによるものです。

 ではアプリの画面デザインは模倣し放題なのかというと,そうでもありません。上記のように,著作権法による一定の保護を図ることは可能であり,また著作権侵害に該当する場合でなくとも民法上の不法行為による損害賠償請求を行う途は残されています。さらに明らかな模倣アプリはユーザーからの批判を受け,企業の評判を低下させるリスクがあります。最近も,人気ソーシャルゲーム「パズドラ」に"激似"だと話題になっていたゲームが早々にサービス終了となりました。

 さらに,諸外国の制度と比べて意匠法上の保護対象範囲が限定され過ぎていることは,かねてから指摘されてきたところであり,特許庁と産業構造審議会知的財産政策部会意匠制度小委員会のもとで画面デザインの保護の拡充へ向けた議論が進められています。画面デザインの保護を拡充することは,同時に他社から権利行使を受ける範囲を拡大することにもつながりますので,デザインの創作に対して必要以上に萎縮効果を及ぼさないような制度設計が必要となります。手始めに特許庁は,平成27年度中に,新しく創作した画面デザインが既に登録された意匠権を侵害するかどうかの事前調査(クリアランス)を行いやすくするため,登録された画像デザインのデータベースから似たデザインを絞り込むサービスを導入することとしています。

(参考) 特許庁・産業構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会
     http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/isyou_seido_menu.htm

Category:不正競争防止法 , 意匠法 , 著作権

TAGS:不正競争防止法 , 意匠法 , 模倣 , 画面デザイン , 著作権

著者
クレア法律事務所>
クレア法律事務所

クレア法律事務所のスタッフブログです。

その他のブログ記事

最新ブログ記事