前回の続きですが、改正民法(債権法)の要綱仮案についてのご紹介です。前回は定型約款、消滅時効、法定利率、債務不履行、危険負担についてご紹介しました(前回のブログ)。定型約款については要綱仮案では保留となり、今後も議論は続くのでしょうが、要綱仮案が法案の原型とも言えるものだと思いますので、引き続き、概要を紹介していきたいと思います。
6 債権者代位権
債権者代位権というのは、債権者(A)が債務者(B)に対して債権を有している場合に、Bが保有している第三債務者(C)に対する債権をAがBの代わりに行使できるというものです。
現行法においても債権者代位権は認められていますが、詳細は解釈に委ねられておりました。要綱仮案はそれを詳細に明文化しています。
訴訟上影響がある部分として、AがCに対する訴訟により債権者代位権を行使する場合、Aは遅滞なくBに対して訴訟告知をしなければならないと定めている部分です。訴訟告知というのは訴訟当事者となり得る者に対して訴訟になっている旨を通知する民事訴訟法上の制度です。
また、従前は解釈により認められていた転用型の債権者代位権についても明記されています。具体的には、登記等をしなければ第三者に対抗できない財産を譲り受けた者は、その譲渡人が第三者に対して有する登記請求権を行使しない場合、代わりに行使できる旨を定めています。これは判例上認められていた具体例をあえて明文化したものと言えます。
7 詐害行為取消権
要綱仮案では、債権者代位権同様に、現行法よりも詳細に規定がなされています。詐害行為取消権は、債務者が債権者を害することを知りながら自分の資産を第三者(受益者)に贈与したりした場合などによく問題となります。
債権者代位権同様に、債権者は受益者に対して詐害行為取消訴訟を提起するとともに、遅滞なく、債務者に対して訴訟告知が必要とされています。
また、詐害行為取消訴訟の認容確定判決は、訴え提起した債権者のみならず、その他全ての債権者にも効力が及ぶと定めています。
8 連帯債務
現行法では連帯債務については履行の請求等いくつかの行為について絶対的効力(1人の連帯債務者に生じた事由が他の連帯債務者にも影響を及ぼすという効力)が認められています。
しかしながら、要綱仮案では、連帯債務は基本的に相対的効力(1人の連帯債務者に生じた事由が他の連帯債務者には影響を及ぼさない)ということになります(相殺については絶対的効力のままです。)。
9 保証
改正民法の目玉の一つとして、個人保証の保護というのがあります。これもかなり焦点になりました。ここは実務に与える影響が大きい部分と言えます。
(1)個人保証の制限
要綱仮案においては、事業のための負債に関する個人保証について、その保証契約前に、契約締結前1か月以内に作成された公正証書で保証債務を履行する意思を表示しなければ保証契約の効力が生じないのが原則となっています。
ただし、以下①~③の場合には、例外的に、公正証書による意思表示は不要とされています。
①主債務者が法人その他団体のとき、その理事、取締役、執行役又はこれらに準ずる者が保証人となる場合
②主債務者が法人その他団体のとき、その総社員又は総株主の議決権の過半数を有する場合
③主債務者が個人のとき、主債務者と共同して事業を行う者又は主債務者が行う事業に現に従事している主たる債務者の配偶者の場合
(2)情報提供義務
まず主債務者は、個人保証の委託を受ける者に対して、財産及び収支状況等について情報提供義務を負う旨が明記されています。この情報提供義務を怠り、保証人が誤認していた場合には、主債務者がきちんと説明しなかったことについて債権者が知り、又は知ることができたときは、保証人は保証契約を取り消すことができるとなっています。
次に、個人の保証人が主債務の履行状況に関する情報提供を債権者に請求したときには、債権者は、遅滞なく、一定の事項について情報提供義務を負う旨の定めがあります。
主債務が期限の利益を喪失したとき、債権者は2か月以内に個人の保証人に対してその旨を通知しなければならず、その通知を怠ったときには期限の利益喪失時から通知までの遅延損害金を保証人に請求できないとも明記されています。
10 債権譲渡
債権譲渡もかなり議論が激しかったようで、中間試案と要綱仮案を比べても、ギリギリまで意見集約が困難であったことが窺われます。
(1)譲渡制限特約
現行法では債権譲渡について当事者間で許さない特約をした場合の効力について不明確で、債権を担保とする円滑な資金調達を阻害している面があったと言われています。そこで、要綱仮案では、「譲渡禁止特約」を「譲渡制限特約」と表現し直して、譲渡制限特約があっても譲渡そのものは有効と明記しました。
ただし、譲渡制限特約について悪意又は重過失の第三者(譲受人)に対しては、債務者は債務の履行を拒めるし、譲渡人への弁済を対抗できると規定しています。このさらなる例外で、譲受人が悪意又は重過失でも、債務者が債務の履行していない状況で、譲受人が相当期間を定めて譲渡人に対する履行の催告をし、その期間内に履行がないときには、譲受人からの債務の履行の請求を拒めなくなるとも規定しています。
(2)将来債権譲渡
現行法下でも、判例上将来債権譲渡は一定程度認められてきました(最判平成11年1月29日民集53巻1号151頁等)が、要綱仮案では将来債権譲渡を明文化しました。
明文化したということで、将来債権譲渡について多少は明確になったのですが、要綱仮案は最低限の規定のみで、解釈に委ねられた部分が多いかなという印象です。その中でも、将来債権譲渡後に、譲渡制限特約がなされた場合の規律(後記の対抗要件である通知又は承諾がされた時に債権が現に発生していないときには、その後になされた譲渡制限特約を主張して譲受人からの履行請求を拒む等はできない。)については明記しています。
(3)対抗要件
以前から、金銭債権の譲渡の第三者対抗要件については、登記に一元化する案が有力に唱えられていました。中間試案でもその案が出ていました。しかしながら、要綱仮案では、登記一元化案は採用されませんでした(この見通しについては「バンクビジネス8/1号」でも記載しましたが。)。
要綱仮案では、債権譲渡(将来債権譲渡含む)は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他第三者に対抗できない旨の規定となっており、現状維持と言えます。
登記一元化案が成立すれば実務に与える影響は相当大きかったと思われますが、相当強い難色が示されたのだろうと推測されます。もちろん、登記一元化案が立ち消えたというわけではなく、議論を尽くすために今回の民法改正では見送りになったということだろうと思われます。
今回のご紹介はここまでにしたいと思いますが、まだまだ要綱仮案は続きますので、次回以降のブログで引き続き紹介予定です(弁護士 鈴木俊)。
平成26年9月12日