平成26年8月26日、法制審議会民法(債権関係)部会において、改正民法(債権法)の要綱仮案が決定されました。改正民法の部会会議が始まったのが平成21年11月ですので、ここに至るまで約5年ということになります。関係者も多い中での意見集約ですし、本当に大作業だと思われます。
今後は要綱案を決定し、来年2月頃に法制審議会として法務大臣に答申し、国会提出という予定のようです。改正スケジュールについては「バンクビジネス8/1号」(近代セールス社)にも記載しています。
決定された要綱仮案全文は法務省HP(http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900227.html)をご参照ください。
ここでは、重要な点についていくつかご紹介したいと思います。
1 定型約款について
従前から議論が激しい「約款」に関する規定の創設については、今回の要綱仮案では取りまとめには至らず、保留となりました。この論点については、改正から落ちたというわけではなく、今後も議論を続けていくものと考えています。この「約款」の規定ですが、中間試案までは「約款」という言葉を使っていましたが、その後の議論で「定型条項」という言葉に変わり、現在は「定型約款」という言葉になっています。
今回の改正は、100年以上前に制定された現行民法の分かりにくいと言われている部分を分かりやすくするという目的もありますので、言葉の与えるイメージを慎重に検討しているのだろうと推測されます。
2 消滅時効
今回は債権法の改正と謳っていますが、債権法だけではなく、錯誤や代理、時効という民法全体に関連がある部分(民法総則)についても改正の対象になっています。その中でも消滅時効の部分は実務にも影響がある大幅な改正となります。
(1)原則
まず、消滅時効の期間ですが、現行法は大雑把に言えば民事10年・商事5年というようなイメージでした。要綱仮案では、
①債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき
②権利を行使することができる時から10年間行使しないとき
に債権が時効消滅するとなっています。これにより、商法522条を削除となっていますので、商事債権によって分類することもなくなり、一律に消滅時効期間が定まります。
次に、現行法では、例えば、医師の診療費は3年で消滅時効にかかり(民法170条)、弁護士報酬は2年で消滅時効にかかる(民法)という規定がありますが、要綱仮案ではこれらの職業別短期消滅時効制度は一切廃止となりました。
私の感覚では、何について民事債権の10年が適用され、何について商事債権の5年が適用されるかについては、結構悩ましいところでもありましたから、分かりやすくなるのではないかと思います。
(2)不法行為による損害賠償請求権の消滅時効
不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効については基本的には現行法どおりなのですが(なお、20年間が消滅時効か除斥期間かについては争いがありましたが、要綱仮案では消滅時効説を採用したものと思われます。)、要綱仮案では人の生命身体の侵害による損害賠償請求権については、より長い消滅時効期間(例えば、被害者が損害及び加害者を知った時から5年間)になっています。
特に、交通事故(人身事故)案件などについて適用されることになります。
(3)時効の完成猶予と更新
さらに、現行法では「時効の中断」という制度があり、時効の進行を止めて、振り出しに戻してしまうというものなのですが、「中断」という言葉が分かりにくいと言われていました。そこで、要綱仮案では「時効の完成猶予」と「時効の更新」という表現が用いられています。
3 法定利率
法定利率については、現行法は民事上は年5%・商事上は年6%となっていました。要綱仮案では、一律に年3%に変更となっています(商法514条は削除)。しかも、3年ごとに1%刻みで見直すとなっていますので、変動利率となります。
また、交通事故の損害賠償などで被害者側の賠償額を減額する要素である中間利息控除の利率についても議論があり、中間試案では年5%案でしたが、要綱仮案では法定利率と同じ(年3%・変動制)になりました。利率が低い方が被害者有利となりますので、これが適用されれば今よりも賠償額が増えることになります。
4 債務不履行
債務不履行についても変更がなされました。中間試案では、「債務の本旨」という言葉を使うと債務不履行の態様を限定する趣旨だと誤読されるとして、あえて削除していたのですが、要綱仮案では、「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき」という形で復活しました。
債務不履行に関する要綱仮案自体は、現行法よりも分かりやすいと感じています。
5 危険負担
契約目的物が帰責性なしに滅失等した場合のリスクを誰が負担するかという問題である危険負担の問題については、現行法の規定が合理的ではないと批判が強かったことから、現行民法534条及び535条は削除という方向になりました。
ただし、危険負担に関する規定が消えたわけではなく、「売買」のパートにおいて「目的物の滅失又は損傷に関する危険の移転」という規定が定められています。そこでは、売主が買主に目的物を引き渡した時以後にその目的物が売主の帰責性なく滅失・損傷したときは、買主は契約の解除等をできないし、代金の支払いを拒むこともできない旨を規定しています。
なお、中間試案では、現行民法536条1項に該当する規定も削除となっていましたが、要綱仮案では復活しており、「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。」と定めてあります。
他にも指摘すべき点が多々ありますので、次回以降のブログで要綱仮案の内容を引き続き紹介していきたいと思っています(弁護士 鈴木俊)。
平成26年9月8日