金融円滑化法が平成25年3月末に終了しましたが、その後の中小企業再生の対応策として、同年12月、日弁連が「特定調停スキーム利用の手引き」というものを発表しました。対象となる中小企業ですが、概ね、年商20億円以下・負債総額10億円以下規模の企業になります。これは法的再生ではなく、私的再生なので、金融機関のみを相手方とできますし、非公開手続きですから「倒産」という負のイメージによる信用棄損も避けることが可能です。
さて、その特定調停スキームにおいて、債務者となる中小企業を救済する手段として債権放棄という手法があります。
ここで問題となるのが、経営再建計画が特定調停スキームにより成立し債権放棄が行われた場合の債権者及び債務者の税務上の取扱いです。そして、この点について、日弁連と日本税理士連合会が連名で国税庁に照会していたところ、平成26年6月27日に国税庁(課税部長)からの回答がありました。
今回はこれを簡単にご紹介します。
① 債権者側の税務上の取扱い
債権者側にしてみれば、債権放棄をしたことによって債務者への経済的利益の供与があったとして、税務上寄附金として認定されてしまい、損金算入がほとんど認められないことにならないかが懸念されます。寄附金とされてしまいますと、債権者にしてみれば踏んだり蹴ったりです。
今回の国税庁の回答によれば、特定調停スキームにより策定される再建計画が特定調停手続きを経て成立し債権放棄が行われた場合には、原則として、法人税基本通達9-4-2にいう合理的な再建計画に基づく債権放棄と考えられるので、その債権放棄により供与される経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないとされ、税務上損金の額に算入することができるということになります。
② 債務者側の税務上の取扱い
債務者側にしてみれば、債務免除を受けた利益に対して法人税が課税されてしまうという「債務免除益課税の問題」があります。せっかく債務が免除されたのに税金によりその資金が流出してしまうのでは、再建計画の効果も半減です。
今回の国税庁の回答によれば、特定調停スキームによる債務免除の場合には、債務の免除等が多数の債権者によって協議の上決められる等その決定について恣意性がなく、かつ、その内容に合理性があると認められる資産の整理(法人税基本通達12-3-1(3))に該当するので、原則として、法人税法59条2項の適用により、期限切れ欠損金を損金算入できるということになります。
いずれの結論も、従前から予想されていたものではあるかと思いますが、それがより明確になったということで、今回の国税庁の回答には相当の意義があると思われます(弁護士 鈴木俊)。
平成26年8月1日