先物取引被害事例(新規委託者保護義務違反①)

先物取引適合性原則

先物取引というのは,初心者には理解するのが難しい,高度な取引といえます。

先物取引により損害を受けたということで相談に来られる方には「初めての先物取引」「初めての投資」だったという方が多いです。

先物取引においては,初心者保護の観点から,専門家である業者は新規委託者保護義務を負っていると解されています。そして,この新規委託者保護義務違反を認めた事例は数多いのです。

そこで,今回も,先物取引被害事例のうち,初心者が被害に遭い,新規委託者保護義務違反が認められた事例(大阪高判平成18年3月17日)をご紹介します。

<事案の概要>

原告(取引当時54歳の女性)は,事務職員を退職後に小さな不動産賃貸業を営んでいたものの,赤字続きの状態だったために,少しでも利回りのいい,安定した収益が得られる金融商品を探していました。原告には投資経験がありませんが,親の遺産の関係で1億円以上の資産は有していました。原告は自ら商品ファンドに興味を持ち,被告に連絡をし,商品ファンドを購入し,ある程度の利益を得ました。その後,被告が,もっと儲かるものとして,先物取引を勧誘してきたため,ガソリンと原油の先物取引を開始しました。その結果,原告は約8か月間で約7600万円の損失を被ったのです。そこで,原告が被告に損害賠償請求したという事案です。

<新規委託者保護に関する判示>

商品先物取引は,複雑な仕組みを有するとともに,極めて投機性の大きいものであり,このような商品先物取引の特質に照らせば,商品先物取引を開始して間もない者は,取引に対する知識・経験が不十分であるため,過大な数量の取引をした場合には,いたずらに損失を拡大させ,不測の損害を被る可能性が高い(このような者には,商品先物取引から生じる結果につき自己責任を負わせるための前提条件が,十分に備わっていないとも評価し得るのであって,一般投資家の中でも特に厚い保護が要請されると考えられる。)。

そして,上記のような保護の必要性に加えて,一般投資家は,商品取引員に委託して商品先物取引をせざるを得ないこと,商品取引員は,商品先物取引の専門家であって,その仕組みや危険性を熟知している上,一般投資家からの受託等契約によって利益を得ている者であること,商品取引員は,取引の委託を受けた顧客に対し,誠実に業務を行うべき義務を負うとともに,委任契約上の善管注意義務を負う者であること等の事情に鑑みれば,商品取引員は,商品先物取引を開始して間もない者に対し,過大な数量の取引を勧誘したり,そのような取引を受託しないようにすべき一般的注意義務を負っているというべきであり,商品取引員ないしその役員又は従業員がこれに著しく反する行為をしたときは,当該行為は,顧客に対する債務不履行ないし不法行為に当たると解すべきである。

<結論>

本件では,取引開始初日に100枚の建玉,1か月後には290枚・・・・約3か月後には1260枚の建玉をさせたことについて新規委託者保護義務違反を認め,その他の被告の違法性も認めた結果,弁護士費用を加えた約8400万円の損害賠償請求を認容しました。

ちなみに,この取引で被告が得ていた手数料は,約5300万円でした。このことからも被告の悪質さが窺えると言えます。

新規委託者保護義務は先物取引関係の裁判においては非常に重要な意義を有していると考えますので,今後もブログ等で紹介をしていきたいと思います。

2012年5月22日

Category:先物取引 , 適合性原則

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