他社株転換条項付社債(EB債)による損害について

デリバティブ取引消費者契約法説明義務適合性原則金融商品取引法

今回は,EB債(販売会社が使用している名称としては,他社株転換条項付社債,他社株転換可能社債等々の名称だったりします。)について少し書かせていただきます。

EB債の仕組みとしては,シンプルに言えば,ある個別株式の銘柄(一般的には,有名な国内上場企業の銘柄になります。)をターゲットとして,償還時のその株価によって,現金償還か株式による償還かが決まるというものです。

例えば(あくまでも「例え」で,現実の商品ではありません。),1億円で,米国モルガン・スタンレー社が発行したEB債を購入します。ターゲットはNTTドコモ株とします。5年後に償還期限を迎えます。金利は普通の社債よりはいい利回りです。基準となる株価を分かりやすく「10万円」とします。5年後の基準時が設けられています。この基準時の株価が10万円を越えていれば,1億円が現金で償還されます。他方,基準時の株価が10万円未満であれば,NTTドコモ株1000株で償還されますが,その価値は絶対に1億円を割り込んでいますので,元本割れです。

他方,基準時に対象となる株価がかなり上がっていても,購入価格限りの償還ですので,現金1億円を超えることはありません。

つまり,元本だけみれば,値上がり益はないのに対し,元本割れのリスクは抱えるということになります。その分,金利は高い設定になっていますが,その金利にも仕組みがついている場合もあります(例えば,デジタル・クーポン型とか呼ばれるものです。デジタル・クーポンについては別の機会にご説明したいと思います。)。

しかも,EB債といった仕組債は一般的な金融商品ではありませんから,流通市場がありません。ですから,流動性リスクが極めて高いのです(中途での売却が困難で,損をすると分かっていながら償還期限まで保有し続けなければならないのです。)。

やや専門的に言えば,発行者側のその対象となる株式を売る権利・プットオプションが組み込まれているということで,発行者側の都合で償還条件が決まっているとも言えます。

では,こういったEB債を買える人というのはどういった人なのでしょうか。

あくまでも私見ではありますが,まず,上記のような元本割れのリスク流動性リスクを具体的に認識できることが大前提です。

さらに,株価変動のリスク発行体の信用リスクも理解でき,ある程度予測ができるような投資経験や投資知識も不可欠と考えられます。

つまり,対象となる銘柄の株価がどう動くか,その企業の財務状況把握や今後の予測も不可欠です。また,そもそも当該EB債を発行している会社がありますが,その発行会社が倒産してしまえば,原則として,償還自体がなされません。ですから,その発行会社(発行会社を保証している会社も含みます。)の償還期限までの状況を予測することが必要です(もちろん,将来どうなるかなんて誰にも分からないのですから,情報収集とそれに基づいた分析が不可欠になります。)。

要するに,EB債の仕組みやリスクを本当に理解していないと,数年後に訪れる償還期限に「株式で償還される」ということがどういう意味なのかを軽く考えてしまうということです。投資経験が乏しい人だと,金利の高さに目を奪われたり,不十分な説明で,リスクがあまりないと考え,株価が大幅に下がれば,その下落分の損失をそのままに受けてしまうという危険性を実感できなかったりするのです。

また,早期償還条項などが付されてている場合には,絶対に早期償還されるという証券会社の説明を鵜呑みにしがちですが(このような説明が「断定的判断の提供」として違法なことは言うまでもありません。),早期償還されるとは限りませんので,早期償還の確率などもよく検討することが必要です。

このように,EB債のような,デリバティブを組み込んだ仕組債は色々なことを検討し,分析しなければならない金融商品ですので,豊富な投資経験と高度な投資知識を有する投資家向けの商品と言って過言ではないでしょう。EB債で損害を受けた方で、よく仕組みを理解していなかったという場合には適合性原則違反や説明義務違反の可能性もあります。

2012年1月23日

Category:デリバティブ取引 , 消費者契約法 , 説明義務 , 適合性原則 , 金融商品取引法

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