最近は金の価格が上昇していますね。
もしかしたら覚えてらっしゃる方もいるかもしれませんが,平成17年12月に金が大暴落したことがありました。今回紹介する事件はそのときにまつわるものです。
Xは株式の現物取引はあったものの商品先物取引の経験のない当時64歳の男性でした。平成17年12月12日に業者Yの外務員による勧誘により1500万円の証拠金で金の先物を購入しました。そのときの金の値段ですが,1グラム当たり2155円のときでした。この際,Yの外務員は,東京市場における金の価格が上昇傾向にあることを伝えるとともに,この傾向は年内は続くとの相場予測を伝えています。
ところが,翌13日には金の相場がストップ安になり,追加保証金(追証)が必要な状況に追い込まれ,Xには資金の余裕がなかったため,翌14日には手仕舞いにすることにしました。その結果,Xには売買差損金3139万円が生じ,証拠金1500万円を控除した後の差額1639万円をYが立替払いをしたというのが事案の概要です。
本件での争点は,①Yの外務員の説明が断定的判断の提供に該当し,消費者契約法4条1項2号により取消しが認められるかどうかという点と②Yの外務員が将来の金の価格が暴落する可能性がある事実を告げなかったとして,消費者契約法4条2項本文により取消しが認められるかどうかという点にありました。
特に,②の争点と関係して,平成17年12月12日に,東京市場における金の価格が独歩高であること等を懸念して東京工業取引所が臨時の委員会を開催し,同月14日から臨時増証拠金をかける決定をしたのです。そして,このような決定が出される可能性は同月9日にも開催された臨時委員会の内容から予測されたものでした。本件ではこういう背景事情があります。
札幌高裁平成20年1月25日判決は,①の争点に関しては,Yの外務員に断定的判断の提供はなかったと認定しつつ,上記のような背景事情を重視して,将来における価格の上下は消費者契約法4条2項の「重要事項」に該当するとし,②の争点についてはXの主張を認め,Xによる損害賠償請求を認めました。
ところが,最高裁平成22年3月30日はこの札幌高裁の判断を覆し,将来における金の価格は消費者契約法4条2項の「重要事項」に当たらないとして,Xのこの請求を棄却しました。もっとも,その他のXの主張等を審理させるために札幌高裁に差し戻しています。
最高裁の判断の理由として,消費者契約法4条1項2号では「将来におけるその価額・・・」と明示しているのに対して,同法4条2項や同項の「重要事項」の定義を規定した同法4条4項はそういった将来における価格といった文言が用いられていないということが挙げられています。
ただ,この最高裁は消費者契約法についてのみ判断したもので,Yの情報提供義務違反等については別途検討の余地があるものと考えます。
なお,消費者契約法4条(3項・5項は省略)は以下のような条文です。
2011年8月19日