平成22年11月26日、金融商品取引法(金商法)29条に違反して、同条所定の登録を受けずに株式等の取得のあっせん・勧誘等を行っていた業者に対し、「抜かずの宝刀」と言われた金商法192条の緊急差止命令が初めて適用され話題になりました。
今回は、平成23年5月13日、ひとつひとつの匿名組合は適格機関投資家等特例業務(金商法63条)に該当するといえる複数の匿名組合の勧誘・運用を行っていた業者に対し、金商法192条1項に基づいて、金融商品取引法違反行為の差止めが命じられた事例をご紹介します。
J社は、一般投資家に対し、複数の匿名組合(Jファンド)について投資を勧誘し、出資金を運用していました。これまでに募集したJファンドは1号から18号まで存在し、募集期間、運用期間及び配当上限等が異なるものの、各号のJファンドを勧誘する際には、同一の匿名組合契約説明書が交付されていました。
裁判所は、J社による勧誘行為について、1号から18号までの各ファンドは、発行者及び出資対象事業が同一であることから同種の新規発行権利であり、平成22年4月6日以降は一般投資家の人数の合計が49名を超えるため金商法63条1項1号の適用はなく、J社は、同法29条に違反する無登録業者に該当するとしました。J社による勧誘行為については、Jファンドの出資対象事業はいずれも同一であり、運用中のJファンドの一般投資家の人数は、平成21年8月末時点で49名を超過し、その後もこれが継続していることから、当該一般投資家らに同法63条1項2号の適用はなく、J社は、同法29条に違反する無登録業者に該当するとしました。
また、金商法192条1項の適用には必要性の要件も要求されるところ、裁判所は、J社は登録を受けた金融商品取引業者ではないため、行政処分を講ずることはできず、同法192条1項の命令によりJ社の無登録業を差し止める以外、必ずしも十分な手段が存在しないこと、新たなJファンドに係る出資金を既存の出資者に対する配当及び償還に充てるというJ社の運用では、運用期間終了後に出資金が償還されない蓋然性は高いものといわざるを得ないことから、公益及び出資者保護の観点から、J社の無登録業を直ちに差し止めることが必要かつ適当であるとしています。
なお、J社は、事業開始当初は、Jファンドの回号ごとに、適格機関投資家の外に一般投資家が49名まで参加することができると誤解し、当初から違法行為をする意図はなかったなどと反論しましたが、Jファンドにおける回号による区別は、単に募集期間や運用期間を区別するものにすぎず、金融商品取引につき相当程度の経験を有していることがうかがわれるJ社がそのような認識であったことには疑問があることなどを理由に、当初からJファンドが適切な出資金の運用を実現するために設立されたものであるとは到底認めることはできないとの判断を示しています。
今後も、金商法192条の緊急差止命令が発令されるケースが出てくることが予想されます。株式や新株予約権の発行により資金を集めようとする際、「募集」と「私募」の要件等に疑問や不安を感じた場合は、事前にご相談ください。
金融商品取引法違反行為禁止等命令申立事件
平成23年5月13日 札幌地方裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110613141003.pdf